必然 | ナノ


8.空前

月島くんに手を引かれたものの、どこに座っていいかわからなかった。その場でオロオロしていると。

「なまえちゃん、ここ座る?」

及川さんが自分の膝を指差した。
うわ・・・。
無言で一歩下がってみた。

「えっ引かないで!冗談だから!半分」

半分本気だったのですね。

「みょうじさん。ここ、座ったら?」

山口くんに手招きされたので、感謝しながら隣に座らせてもらった。
隣に座っていたプリン頭の方に軽く頭を下げると彼も軽く頭を下げた。

「じゃあ俺からいくな」

そう言って切り出した澤村さんは立ち上がって話し始めた。

「さっきも言ったけど、俺たちは2階の3−3のプレートがある教室で目が覚めたんだ。いなかったのは1年だけ。それで教室から出たら−」
「俺らと会ったんだな」

寝癖さんが言った。澤村さんは頷くと話を続けた。

「それで体育館に行ってスガと2年で探索させに行ったんだ」
「大地人使い荒いよな」

菅原さんが苦笑しながら言うと2年生の皆さんが頷いた。澤村さんが黒い笑顔でなに?と言うと一斉に皆さんが目線を反らした。

「それで、烏野の1年はどうしてたんだ?」
「えぇっと…」
「僕たちは3階で目が覚めました」

日向くんが答えられずにオロオロしていると月島くんがフォローした(フォローなのかわからないが)

「何のプレートも無かったので、恐らく何かの準備室みたいな所だと思います」
「それで日向が怖がって教室飛び出して…」
「怖がってねーし!」
「はあ?」
「はい、あとでねー」

菅原さんって、お母さんみたいだな。
二人は渋々大人しくなった。

「で、何とか日向を落ち着かせて探索していたんですが、教室で」
「化け物に会ったのか」

寝癖さんの言葉に無言で頷く月島くん。続けて影山くんが言った。

「教室から出たらコイツがいて…」
「女の子にコイツって言っちゃダメだよ、トビオちゃん」

及川さんの言い方にイラっときたらしい影山くん。だが何とか気持ちを押さえられたようだ。

「みょうじさんがいたんで、連れてきました」

その言葉に皆が一斉にわたしを見る。視線に耐えきれずに、わたしは下を向いた。

「君が目を覚ました時の話を聞かせてくれ」
「 」

はい、と言おうとして声が掠れた。
大勢の人の目がわたしを見つめていると思うと指先の感覚が無くなっていくような気がする。
隣の山口くんが、がんばれ、と小声で言った。

その言葉に少し勇気を貰った事は秘密にしておこう。
わたしは深呼吸して顔を上げた。
皆の視線は怖くない、怖くない。
そして言葉を紡ぎ始めた。

 

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