必然 | ナノ


6.凄然

あれから烏野の方たちとは簡単な自己紹介をすませ、これまでの経緯を教えてもらっていた。

「えっと、みょうじさんだよね。みょうじさんはどうやってここまで来たかわかる?」
「あ、はい。
わたしは教室で日誌を書いていました。もう一人の子は…サボって帰ってしまって一人でした」
「サボりとかないだろ。なあ龍」
「ああ。可愛い女の子を一人にさせるなんて」
「話が続かないから…。ごめんねみょうじさん」
「あ、いえ。…それで、一人で書いていたんですけど、途中で眠くなっちゃって…気付いたらここにいました」
「ありがとう。別に変な事はないよな」
「一ついい?」
「あ、はい」

月島くんが急に問い掛けた。

「それっていつ頃の事だか覚えてる?」
「確か…五時ぐらい、だったような気がします。まだ暗くなかったです。…あ、あと野球部の声も聞こえました」
「だそうだけど、それがどうかしたか?」
「…おかしくないですか?僕たちが眠くなったのは少なくとも六時半すぎですよね?それでみょうじさんが眠くなったのは五時すぎ…」
「時間の差か…」

一体どうなっているのだろう。

「いよいよ訳がわからなくなってきたな」

向こうから赤いジャージの特徴的な髪型の人がやって来た。
後ろから赤い集団がぞろそろと。

「どうだろうな。実はわかっていたりして」
「はは、なわけないだろ」

二人の会話がぎこちなく感じる。
友達…とかではないのだろうか。

「わー楽しそう。俺らも混ぜてよ」

これまた特徴的な髪型の人がやって来た。しかもいかにもチャラそうな人だ。
後ろに白いジャージの方々がぞろぞろと。

「あ、かわいー。君、名前何て言うの?」
「えっ!?」

チャラ男さんがいきなり問い掛けた。
わたしは咄嗟に隣にいた影山くんの後ろに隠れた。

「うおっ!」
「あれー飛雄ちゃん、元気にしてた?」
「…」

あからさまに嫌そうな顔をした影山くん。
ごめんなさい。でもわかって下さい。
隙を見て逃げようとしていたら急にチャラ男さんに腕を引っ張られた。

「俺、及川徹。ヨロシクネ」

にっこりと笑顔で言われたが、わたしは今それどころではない。
何しろ彼の腕を引っ張る力が凄いのだ。男子だからかもしれないが。

「ヨロシクネ」

わたしの顔を覗きこむようにしてもう一度言った。
あまりの近さに顔に熱が集まってくるのがわかる。

「わぁー、顔が真っ赤で可愛いね」
「!!」

恥ずかしい!!
と、同時に。

「イデッ!」
「わっ!」

及川さんは左へ、わたしは後ろに倒れこんだ。
正確には、わたしは引っ張られただけなのだけれど。

「おい、クソ川。テメェはこんな所で何してんだよ」
「たとえ王様の先輩でも、そういう事はしちゃダメだと思いますよ」

及川さんを倒したのはトゲトゲさん(?)で、わたしを引っ張ったのは月島くんだった。

「なにって、ナンパ?」
「あぁ!?」

及川さんとトゲトゲさんが口論(?)を始めていて、月島くんはわたしの腕を掴んだまま離そうとしなかった。
何か言わなくちゃ、と口を開こうとすると。

キーンコーンカーンコーン

突然、聞き慣れた音か鳴り響いた。
聞き慣れている筈なのに、なぜか今は不安に感じてー。

騒がしかった体育館はいつの間にか静かになっていて、

皆の視線はスピーカーへと注がれていた。

 

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