必然 | ナノ


5.渾然

体育館の中にいた人達はわたしの事をあまり良く思っていないようだ。
あれから誰一人としてわたしに話し掛けてくれる人はいない。
とりあえず今は体育館の隅で彼らの話を聞くことにした。

「そっちはどうだった?」
「何も無かった。音楽室に行こうとしたら日向の悲鳴が聞こえてすぐ戻って来たんだ」
「俺!悲鳴なんて上げてないです!」
「嘘つけ、思いっきり叫んでただろ」
「うるせー!!」

わたしを助けてくれた影山さん達のグループは、皆が真っ黒なジャージを身に纏っていた。

…真っ黒?

慌てて彼らのジャージの後ろを見てみた。そこにはー。

「烏野…」

わたしと同じ学校ではないか。どうして今まで気が付かなかったのだろう。
わたしの声に反応した彼らはこちらに一斉に振り向いた。
なんという圧迫感。

「君、うちの生徒?」

涙ぼくろが特徴的な優しそうな人が近づいて問い掛けた。

「あ、はい。1年5組のみょうじなまえです」
「5組か…」
「5組って、いた?」
「あ!谷地さんと同じクラスじゃないですか?」

そばかすさんが問いかけた。
そういえば仁花ちゃんはバレー部のマネージャーだっけ。

「あ、そうです」
「何だ、じゃあ部外者じゃないな」

威厳がある男の人がこちらへ近付いてきた。

「俺は澤村大地。で、こっちが菅原孝支であの怖い奴が東峰旭」
「怖い奴って…」
「気にすんな、旭」
「俺達は皆バレー部なんだ。男ばっかで不安に思うかもしれないけどよろしくな!」

澤村さんはわたしに手を差し出した。
どうすればいいのかわからなくてオドオドしていると彼はくすっと笑った。

「手」

手…。
おもむろに手を差し出すと、引っ張って起き上がらせてくれた。

澤村さんは微笑んでいた。

彼だけではない。
体育館の中にいた全ての人達が微笑んでいた。

もう、怖くない。独りじゃない。

わたしを見ている人達の目は、

あたたかかった。

 

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