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3.昂然

蛇に睨まれた蛙のように、わたしはその場から動くことが出来なかった。
化け物がその赤い目を細め、口を歪ませて笑った。

あ、死んだ。

化け物はわたしに飛びかかろうと、猫のように伸びをしてー。
そこまで見るとわたしは誰かに引っ張られた。
瞬きすると、今さっきわたしが立っていた場所に、化け物がいた。
もしあそこにいたら、潰されていただろう。
我ながら冷静に考えているな、と思っているとまた急に引っ張られた。
そちらを見ると目付き悪しさんだった。
驚いたのも束の間、彼はわたしの手を引いて走り出した。
手を繋ぐなんて、幼稚園生以来だな。
そんな事を考えながら、わたしも走り出した。

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さっき廊下を歩いている時はなかった筈なのに、すぐそこに階段があった。
すると、目付き悪しさんは何を思ったのか、そのまま飛んだ。
わたしがいるのに、だ。
目付き悪しさんは、あ、ヤベという顔をしていた。
わたし達は宙に浮いた。

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わたしを襲うであろう痛みに目を瞑っていたのだが、一向に痛みはやってこない。
恐る恐る目を開けると、目の前に目付き悪しさんの顔があった。

「うぇっ!?」

反射的に身を引こうとしたが、浮遊感を感じて、自分の今の状況を確認してみた。

「悪い」

そういうと彼は踊り場からまた飛んだ。
そう、わたしは彼に所謂“お姫様抱っこ”をされていたのだ。

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目付き悪しさんはまだわたしを降ろしてくれなかった。もう走らなくてもいいのに、と思っていると、後ろから物凄い音が聞こえた。
化け物が追ってきたのだ。
彼も追ってくる気配に気付いたのだろう。走るスピードが上がった。
スピードが上がった分、振り落とされないように踏ん張る力も上がる。だが、流石に彼のどこかに掴まっていないと落ちるな、と焦り出した頃。

「首、掴まってていいから」

ぶっきらぼうに彼は言った。
もしかして声に出していたのだろうか。はっと口元を押さえると。

「 顔に出てる」

やはりぶっきらぼうに彼は言った。

…首、ですか。

でも流石に何かに掴まっていなくては落ちてしまう。

「…失礼します」

恐る恐る彼の首に手をまわした。
彼との距離が縮まった分、彼の体温が直に伝わってきた。

温かい。

彼は生きている。

 

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