▼おにになったひ




「ああ憎らしい、憎らしい」



血濡れの刀を持つその男は、夕凪おいらんや女将さんや、顔見知りの女郎の首を持ちながらこの部屋へとやってきた。辺りはその男の言葉が響くほどに静かだ。先程まで怒声や恐怖の叫びが辺りを覆い尽くしていたというのに。

さっきまで嬉しそうに頬を染めながら、優しく笑っていた夕凪おいらんはその綺麗な顔そのままに、ぽたぽたと首から血が流れる。髪を持たれているから、綺麗に整っていた髪はぐしゃぐしゃだ。
私はひ、と声を上げた。少し驚いて、目からは水のようなものが流れる。
あの優しかったおいらんは、死んだのだと急激に理解したからだ。
別に自分が殺されようとどうってことない。でも優しくしてくれた姐さんや厳しくも最後には白米とつけものをくれた女将さんが死んだ。それがとても心を抉った。




散々だ。私の人生は散々だ。

私がかわいそうでかわいそうで仕方ない。なぜわたしだけこんなに辛い目に合わなければならないのだろうか。
顔を手で覆う。俯く。
この世で一番、いまこの瞬間、わたしはかわいそうだったからだ。


「私が対処してもいいのだが、少し試してみようか」



隣にいらっしゃった鬼舞辻さまは、さめざめと泣く私の髪を掴んで顔を上げさせた。
その衝撃に目を見開く。鬼舞辻さまは笑って、次の瞬間に衝撃が走った。




いたい、


いたいあついいたいあついいたいあつい。

身体中が太陽に包まれたかのような灼熱に見舞われる。血管という血管が破裂する。言葉通りに血が沸騰する。ぶちぶちと体が裂ける音がして、どろりとなにかが体の中からやってくる。爪も何もかもが剥がれて、叫びにならない叫びが喉から飛び出した。



起きたとき、私は夕凪おいらんの首をかじっていた。














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