05



No.696に付いて行くことになった。
ワタシの他には、チクサとケンという個体名を持った男の子が2人。その他は皆、自我を失った木偶人形だったらしい。それもこれもワタシが施設の設備システムをダウンさせたせいではあるけれども。

外の世界で生きるには名前が必要だ。
チクサもケンも持っていて、ワタシと彼だけが持っていない。名前はどうやってつけるのかは分からない。でも、彼は個体に付けられた番号からムクロと名乗ることにしたようだ。

「シャーロック」
「?」
「君の名前ですよ、No.4869」

困り果てたワタシを見かねて、付けたらしい。

「シャー、ロック」
「気に入りませんか?」

どこか残念そうに眉尻を下げた彼−ムクロ−に、首を振る。

「ううん。いいと思う」
「そうですか。それは良かった」

赤と青の目を柔らかく細めたムクロを見て、これが笑顔というヤツだと理解した。


−−−


「蒼井さん!着いたよー、起きて!!」

騒がしい声に意識が覚醒する。
隣りにいたはずの烏間先生の姿はない。表向きの引率教師として一足先に外に出たのだろう。車両内には強制的に着替えさせられたパジャマ姿の英語科担当と人外担任、それから立ち上がってゾロゾロと出ていくクラスメイト達。
目の前の茅野が笑ってワタシの手を引いた。

荷物をもってホームに出る。
横のグリーン車からはD組がゾロゾロと出てきていて、相変わらず人を見下す馬鹿な顔だ。くだらない人間達を無視して奥田の後ろに付く。
目の前で黒いお下げが揺れた。

「あっ!」
「………?」
「えっと、あの………おはよう、ございます」
「うん」

吃りつつも挨拶してくる奥田に頷く。
その反応に不満だったらしい左隣に並んだ茅野が、何やら文句を言っていたが聞き流した。欠伸をしながら、そこら中で話しかけてくる××達に脳内でレスポンスを返す。
人だけではない騒がしさに、下がりかけていた回路の熱が上がる。

しんどい。


−−−


他のクラスと違ってE組は旅館で宿泊する。
他のクラスはホテルで個室を貰えるらしい。その事については少しだけプラスではあるが、基本的に本校者の人間はひどく面倒臭い。
それが人間らしさだと言われれば閉口するが、やはりA組の彼のような人間の方が好ましく思う。

どうやら、旅館でも大部屋での寝起きがE組への対応のようだ。
茅野に手を引かれたまま部屋の隅に荷物を置いた。この後はその回りの軽い荷物で暗殺コースの下見、その後に実際に担任を案内する。
たしか、そんな計画だった。

「蒼井さん?」
「………なに」
「もしかして、熱ある?」

視界が揺れて気持ちが悪い。
体調不良(エラー)が何度も何度も脳内を蠢いていて、体感温度が低い。火照った額に、茅野の掌が触れた。

冷たくて、静かな感触。

「寝てた方がいいよ」
「………そうする」

部屋に引き返して、茅野と神崎、奥田が布団をしていくれた。
運動機能が低下した身体を潮田が支えてくれている。

気味が悪い。

人間は良く分からないから、怖い。



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