面倒事が、10と6つと半分




イタイ。
最初に感じたのは痛み。

クライ。
次に感じたのは暗さ。

カナシイ。
その次は悲しみ。

クルシイ。
そのまた次は苦しみ。

「やったぞ、成功だ!」

その言葉が波紋を描く。
ワタシの中の暗い水面に。
言葉が水滴となって向こうに滲む。
真っ赤な紅。
そこに漂う黒。
そして、

「いやぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!」

自身を押さえつける重みに意識が戻る。
目の前には眩しい癖のある金髪。
首筋にはSの文字。

「ス、パ…………ナ?」

ウチの言葉にスパナが頷く。
喉がカラカラで痛い。
身体もダルい。
とにかく寒いんだ。

「ソラ、大丈夫?」

正一の声。
声はだんだんとチカズイテクル。
視界の隅に現れた明るい癖毛に安堵した。
大丈夫、まだ大丈夫。

「しょ、い、ち」

安心したせいか眠い。
身体が暑くて、でも寒くてダルい。
睡魔がゆっくりと這い上がって来る。
嫌だ。
眠りたくない。
だって、眠ればまた…………




コワイ。
ココはドコ?

その問いかけは何時も暗闇にのまれてしまう。
右を見ても、左を見ても、あるのは闇。
真っ暗で冷たくて、とても静かな存在。
嫌だ。
イヤだ!

怖くて目をつぶって蹲ると光がやって来て、そして、

「またダメか」

そう一言。
ポツリとワタシの中に響く。
見捨てられることが怖くて。
でも、あの闇はもっと怖くて。
知らず知らずのうちに涙が溢れる。

コワイ、コワイよ。
イタイのは、イヤだ。

___ ___ でしたら、望みなさい

頭の中で響く声。
聞いたことのない男の子の声。
貴方はダレ。

___ ___ クフフ、僕は骸。六道骸。望みなさい、そうすれば貴女は自由になれる。

だから、ワタシは望んだ。
生きることを。
自由を。
そして、

ワタシは《巡った》




フワリ。
何かがワタシの中に入った。
否、ワタシがダレかに滲んだのかもしれない。
うっすらと目を開ければ静かな水面。
ワタシを囲うのは真っ赤な紅。
そして、あの子を囲うのは真っ暗な黒。
目の前のあの子。
ソレはワタシの片翼。
ソックリなワタシの片翼。
ワタシは彼の言葉によって巡った。
だけど、あの子は?
あの子は囚われたまま。
可哀想に、ワタシの愛おしい片翼。
ワタシがマモルね。

そう呟いてワタシはあの子と手を繋いだ。

「やったぞ、成功だ!」

その言葉と共に水面に波紋が生まれた。
コチラに落ちた水滴は黒く淀み、滲んでゆく。
そして、あの子は。




「ん」

夢を見た。
どこか懐かしくて、怖い夢。
なんだっただろうか。

「おはよう、ソラ」
「おはようす、スパナ」

眠たそうに瞼をするスパナにありがとう、と伝える。
そうすると、いつも通りの顔で別に、と素直じゃない。

「おはよう、ソラ。体調は大丈夫?」
「ん」

そういえば身体の暑さも寒さもダルさもない。
いつもの健康体に戻ったようだ。
起き上がって関節を鳴らせばバキリ、と大きく鳴った。
うん、悪くない。

「ソラ、コレからはちゃんと休むこと」
「ん」
「無理もしないこと」
「ん」
「それから………」
「正一、お母さんみたい」
「なっ!?スパナ!!ソラも笑わない!」

スパナの的確なツッコミに笑いがもれる。
何だか怖い夢を見た気がするけど、まぁ、いいか。
それにそこまで悪いものでも無かったし。

そう心の中で呟いてウチは笑った。


【大丈夫、まだ大丈夫】




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