面倒事が、10と5つ
「神崎さん、さっきの写真ちょっと意外だったなぁ。真面目な神崎さんにもあぁいう時期あったんだね」
「写真?」
「メカは気絶してたから見てないんだっけ…うちは父親が厳しくて、良い肩書きばかり求めて…そんな生活から離れたくて、制服も脱ぎたくて知り合いのいないとこで格好も変えて遊んでたんだ」
「……………」
「バカだよね、遊んだ結果に得た肩書きは"エンドのE組"で…もう自分の居場所わからないよ」
どうやら、真面目な神崎サンもヤンチャな時期があったらしい。
ホント、人って見かけによらないよな。
「同類になりゃいーんだよ。オレら肩書きとか死ね!!って主義でさ。エリートぶったやつらの人生台無しにしてよぉ。良いスーツ着たリーマンに女使って痴漢の罪着せて、勝ち組みてーな女はこんな風に二度と消えない傷刻んだり…俺らそういう遊び沢山してきたからよ、台無しの伝道師って呼んでくれよ」
「台無し…………か」
台無し。
なるほど、台無しか。
今、振り返ってみればウチの人生なんて、とっくのとうに台無しだ。
「あーあ、我慢できねぇ!」
リーダーと思われるヤツが叫んだ。
何だろうか。
こっちを見てニヤリと笑った。
「なぁ、メカさんよ。アンタ、今、身体が動かないんだろ」
「え!?」
「そうすね」
確かに、今、身体が動かない。
それだけ、身体には日頃のダメージが蓄積されているという事だが。
「まずアンタから台無しを教えてやんよ!」
その言葉と共に腕をつかまれて、そのまま後ろのソファに投げられた。
意外とふかふかで、背中から落ちた割にはダメージが少しで済んだ。
「あーあ、かわいそ」
「まぁ、アイツに目付けられた時点でドンマイだな」
ソファーに横たわるウチに覆いかぶさったソイツ。
やめろ、気色悪い。
「今からオレたち10人ちょいを夜まで相手して貰う、宿舎に帰ったら涼しい顔で楽しくカラオケしてましたって、そうしたら誰も傷付かねえ。東京帰ったらまた遊ぼうぜ、旅行の写真見ながら…なぁ」
ニタリ、と気持ち悪く笑ってワイシャツに手をかけてきた。
気持ち悪い。
触るな、ウチを誰だと思ってんだ。
「このクズ」
「あ"?」
「今なら未遂でお咎め無しにしてやる、だからさっさとどけ」
「何だと!?」
は、どうやら、おつむが足りていないようだ。
1度言って理解出来ないとは。
「このクズ。今なら許してやるっつてんだよ」
そんなこともわかんないのか、と言い放った。
その瞬間、鈍い音が部屋に響く。
ウチが殴られた音。
「このアマ、調子にのりやがって!てめぇの状況わかってんのか?あ?」
「そっくりそのまま返す。アンタ、誰に手を出してるのか分かってんの?」
もう1度、鈍い音が鳴る。
口の中が切れたらしい。
血の味が口内に広がる。
メカが殴られた。
しかも、2度も。
相手の不良を挑発して怒らせたから。
普段のメカならそんなことしない。
だって、今のメカは物凄く怒ってるから。
何時もの冷静さが嘘みたいだ。
口調までが変わるぐらい。
多分本人はきづいていないと思うけど。
「クソが!優しく抱いてやろと思ったが気が変わったぜ。そのキレーな顔が涙でぐちゃぐちゃになるまで犯してやる!!」
「メカ!」
「誰がお前何かに屈服するか」
メカはまるで上等だ、と言わんばかりに睨みつけた。
ダメ、やめて。
そんなことしないで。
その声すら出ない。
「生意気な口きいたのを後悔させてやる!」
その言葉と共に何かが裂ける音がした。
慌てて顔をあげれば、その音の正体がはっきりした。
リーダー格の男がメカのシャツを破ったのだ。
最早、ただの布と化したそれから覗くのは白い肌。
そして、そこら中に走る傷跡と少し大きなタトゥー。
「何だ、お前も台無しの1人かよ。こんな大きなタトゥー入れちゃってよ、何だよそんなに遊んで欲しかったのか?」
「………………」
左腹部に鎮座するそのタトゥーは、S。
どういうことだろう。
昨日のお風呂の時にはタトゥーどころかあんな傷跡も無かった。
「正一、スパナ、『助けて』」
メカが英語みたいな言語を呟いた。
「正一、スパナ、『助けて』」
コレは合図。
私たち、SSS(トリプルS)の合図だ。
私がメカニカルメカニックであるとバレた。
それを伝える為の。
【台無し】
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