面倒事が、9つ




翌日。
授業開始と同時に昨日より更に増えていた。
何がって?
殺せんせーの残像が、だ。
明日から中間テストなので今日は朝から強化テスト勉強をするらしい。
しかも、1人につき4分身殺せんせーがつく。
そんなにいらない。
予鈴が鳴ると殺せんせーは相当お疲れの様子。
ぜーぜー言いながら触手でうちわと扇子を仰ぐ。
お疲れ様す。

「なにがあったんだろうね」

隣の赤羽サンがココぞとばかりに絡んできた。
はっきり言おう、

「鬱陶しいすよ」
「殺せんせーが?」
「アンタすよ、赤羽サン」

横目で赤羽サンを見る。
ニヤニヤと笑い、コチラの反応を伺っているあたりからかっているのだろう。

「なるほどよくわかりました、今の君達には暗殺者の資格がありませんね」

赤羽サンと話をしてるあいだに何かあったらしい。
ザワザワ、と騒がしくなり殺せんせーに全員校庭に出るように言われる。
他の人に合わせて校庭に出るとサッカーゴールを移動させる殺せんせー。
クルリ、と回ってイリーナサンをみる。

「イリーナ先生、プロの殺し屋として伺いますが………仕事のとき用意するプランは1つだけですか?」
「いいえ、不測の事態に備えて予備のプランの方を本命のプランより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ」

そりゃ、そうだ。
暗殺者が相手するのは実際に血が通う生きた人間だ。
不測の事態なんて何時でも起きる。
それが何処であろうとも。

「では烏間先生、ナイフ術を生徒に教えるとき重要なのは第一撃だけですか?」
「第一撃は勿論最重要だが次も大切だ、強敵なら第一撃を高確率でかわされる。二撃三撃をいかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける」

今更、こんな事を聞いて何になるのだろうか。
ターンして生徒を指さす殺せんせー。

「先生方の仰るように、自信の持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれるのに対して、今のキミ達はどうでしょう」

クルクル、とその場で回転し始めた。
その速度は徐々に上がっていく。

「俺たちには暗殺があるからそれでいいと考えて勉強の目標を低くしている、それは劣等感の原因から目を背けてるだけです」

殺せんせーの回転に合わせて旋風が発生。
凄いな。

「もし先生が逃げたら?他の殺し屋が先生を殺したら?暗殺という拠り所を失ったキミ達にはE組の劣等感しか残らない………そんな危ういキミ達に先生から忠告です」

ついに殺せんせーを中心とした竜巻が発生した。
暴風に吹き飛ばされそうになる。
とっさに近くに居た赤羽サンの腕を掴んだ。



殺せんせーの起こす暴風に耐えていると不意に腕をつかまれた。
驚いてそちらを見れば、蒼井さん。
とっさに掴んだんだろうけど、少し嬉しかった。

「校庭の凹凸や雑草を少し手入れしておきました」

確かに校庭が綺麗になっていた。
ホント、殺せんせーってなんだかんだ言って凄いと思う。

「先生は地球を消せる超生物。この一帯を平らにする事など容易い、もしキミ達が自信の持てる第2の刃を示せなければここの校舎ごと平らにして先生は去ります」
「第2の刃、か…………」

小さく、蒼井さんが呟いた。
たまに英語っぽい言語を使っている。

「何時までに…………?」

渚くんが殺せんせーに問う。
殺せんせーは決まってますと答えた。

「明日です。明日の中間テストでクラス全員50位以内を取りなさい。キミ達の刃は先生が既に育ててます、先生は本校舎に劣るほどのトロい教え方はしていません。自信を持って振るい仕事を成功させ恥じることなく笑顔で胸を張るのです。自分達が暗殺者であり、E組であることに」

クルリ、と踵を返して教室に向かう蒼井さん。
教室に入るなり皆が休憩時間を惜しんで勉強している横で荷物を纏めていた。

「アレ?帰るんだ?」
「ウチが此所に居るメリットないすから」
「えっ!?メカ、帰っちゃうの?」

わからないとこ、教えて貰おうと思ったのに。
茅野さんが落ち込んだように言った。

「まだ、お昼前だよ?」
「だからなんすか」

少しだけ不機嫌そうに返された。
アレ、もしかして怒ってる?
そう思って、どうしたの?と聞けば心底嫌そうな顔で、

「アンタに関係ないす」

クラスが呆然とするなか蒼井さんは帰った。

【鬱陶しいすよ】


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