part3

*Syarnorke side


 うっわ、今アイヴィー表向きには“説明”って言ったけど確実に“言いわけ”って言葉が当てはまるんだけど。
 頭痛いなあ、と眉尻を下げても状況が改善されることは少しもない。


「おいフィンクス、てめェ何他人事みたいなツラしてんだ?」
「おい、巻き込むんじゃねえ!」
「あぁ!? お前だってアイヴィーの弱点を見つけてェとか言ってただろーが!」
「そ、それは……!」


 へぇ、フィンクスも? とアイヴィーがにっこりと笑ってフィンクスに顔を向けた。パキリ、と小気味のいい弾けるような音がアイヴィーの握られた両手から数回。
 あれ? あの二人に謝らせるスキが無い気がするんだけど気のせい?


「ゆ、指鳴らすと関節とか靭帯とか……軟骨とかも衝撃で傷ついて、指守るために丈夫になろうと指が太くなっちまうからあんまりするなってアイヴィー前俺に言ってただろ……!」


 何逆効果なこと言ってんのフィンクス、と冷や汗を流したところで「だから?」とアイヴィーの追い討ち。言葉に詰まったフィンクスは視線をノブナガのほうに逃がした。フィンクスの麻痺状態の知らせを受けて再度フィールドにノブナガが登る。
 ……まるでターン制のバトル状態だね、これ。


▼やせいの アイヴィーが あらわれた!

▼きょうかけいの 「くいつくす」
 アイヴィーに 500のダメージ!

▼アイヴィーの 「げんこつ」
 シャルナークに 200のダメージ!

▼ウボォーギンの 「うまかったぜ」
 アイヴィーに 100のかいふく!

▼ノブナガの 「あじつけのもんく」
 アイヴィーに クリティカルヒット!

▼アイヴィーの 「いかり」 はつどう!
 こうげきの めいちゅうが 3ばいになった!


 カウンター席から様子を見ているだけでノータッチなマチにふざけてそう送信すると、すぐに気付いたらしいマチは画面を見た途端に冷たい視線をよこしてきた。安定してる。
 そしてそのまま自身の携帯を近くにいたシズクに見せ、何やら会話を交わした後、マチではなくシズクが携帯になにやら打ち込みだした。


「た、たしかに俺たちはお前の弱点でも見つけてやろうと思って貰った! だがまだ何もしちゃいねェぜ?」


 自身の番になったノブナガの説明という名の言い訳に、ノブナガはしまいには「俺は悪くねぇ!」と言い切った。
 今度は先とは逆にノブナガがアイヴィーの襟をつかむ。それに同調してフィンクスも、自分は悪くないとアイヴィーに言った。

 あの二人完全に終わったな、と俺以外も思っているはず。
 案の定、へぇ? と先程よりももっと深く口元に弧を描いたアイヴィーの瞳孔が糸のように細まった。


▼ノブナガ フィンクス の どうじこうげき! 「あぶらをそそぐ」

 ┗「いかり」じょうたいの アイヴィーには ぎゃくこうかだ!

 ┗アイヴィーの ぜんステータスが +10になった!


 ピリリと受信の機械音が小さく鳴り、受信ボックスに振り分けられていたそれを開くとそれだけが画面にでてきて思わず笑いをこぼした。
 マチの端末からってなってるけど、これシズクだよね。

 油を注がれたアイヴィーはどんなだろうとアイヴィーのほうを見ると、意外にも目にみえて怒り狂っているような様子ではなかった。全ステータスは+10モードだから注意しなくちゃだけど。

 眼球の色が赤になってくれればいいものを、ちっとも色が変わらないってことは、今アイヴィーはいつも通り冷静だってことでもある。……タチ悪いね。


「おい、表出ろ」


 アイヴィーはシンプルで凝っていないデザインのドアを親指で指す。
 喧嘩とくれば、そこに乗っかってしまうのが強化系の良くも悪くもあるところ。横のウボォーが少しうずうずしてるけどダメ、絶対。

「上等だ!」「やってやろうじゃねーか!」と啖呵を切ったノブナガとフィンクスはズカズカとアイヴィーが指したドアの方へ向かい、移動する二人を見てその後ろをアイヴィーがついていく。

 ドアベルも何もついていない扉から二人が外に出たところでアイヴィーは外にでることなく、足を止めて扉を閉めた。
 どうしたの、と急に立ち止まったアイヴィーに尋ねようとすると、ガチャリと鳴った重たい音。


「……あ?」
「……え? あ? うわマジかよ!」


 場が一瞬にして静まり返ったために、ドアの向こう側――つまりは外――からの二人の抜けた声が十分にここにも届く。
 ドンドンとせわしなく叩かれるドアと、「開けろアイヴィー!」と叫ぶ二人の声に俺も外の二人に一歩遅れて状況を理解した。
 簡単に説明すると、

アイヴィー「表へ出ろ」

戦闘と思い二人は素直に外へ出る

まさかの締め出し ←今ココ!


 ……って感じかな。


「うわぁ……こっわ……」
「なに?」
「いや、なんでもないです」


「喧嘩じゃねぇのかよ……」と騒々しいドアのほうを未だに見つめながら頬をひきつらせるウボォーの気持ちがまさにここにいる一人を除いたメンバーの心境だった。


「あ、あのままにしておくのか?」
「あのドアは念で強化してるわけでもないただの鍵がかかったドアだぞ? その気になれば簡単に破れる」


 そこまで言ったアイヴィーはドアのほうに視線を一瞬だけ投げ、「だけど」と続けて口を開いた。


「それをあの短気な二人がしないでしばらくの間きちんと待ってたら反省したとみて許すつもり」


 そう言って苦笑して「謝るのが少し苦手な奴らだし、30分で手を打ってやる」とアイヴィーは肩をすくめる。実際のところ案外怒っていなかったのかも、とホッと息をついた。
 いや……うん、だって一歩間違えてれば俺やウボォーは今頃外でドア叩く側に回ってるからね。
 ウボォーのほうをそっと伺うと珍しく冷や汗を顔に浮かべていた。俺もたぶん人のこと言えないけど。


「……こんなことで口論になるなんて自分でも結構呆れてんだ。俺もあいつらには謝んないとだよな」
「別にいいと思うけど……それでアイヴィーの気が済むなら謝ればいいと思うよ」


 ピリリ、となった携帯を開くと「アンタが言える立場じゃないけどね」と一言だけが届いていた。今度は紛れもないマチだよこれ絶対。とりあえず白旗の絵文字を三個送って携帯を閉じた。


「ま、あの二人は単純だけど本物の馬鹿じゃないだろうし、きっと30分くらい待っててくれるって信……」


 アイヴィーがそこまでいいかけたところで扉のほうからはすさまじい破壊音が鳴り響いてアイヴィーの言葉を見事に潰した。
 思わず「げ」と声が出る。アイヴィーの様子を恐る恐る伺ってすぐ後悔した。たぶんそれは他のメンバーも同じだったと思う。


「ここまで見事に期待を裏切られると清々しいもんだ。ね、シャルくん?」
「あ、はは〜、イイ笑顔……だね?」


 冷や汗が止まらない俺の返答を聞くや否やアイヴィーは床を蹴った。ヒラヒラと風で遊ばれる髪で頬が少しくすぐったい。


「おいアイヴィー!」
「アイヴィーよくも、」


 大きな穴があけられ、瓦礫が転がる入り口から一歩中に入りこんだ追い出され組の二人は、ガッ、とさながら戦闘漫画のように苦しそうな短い声をあげ、言葉を言いきることもなく再び俺たちの視界から消えた。




(「本気でいい加減にしろよお前ら」)

(……本当に俺じゃなくてよかった)


fin.

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