part2
*Syarnorke side
「うわ、もう残ってないのかよ」
俺が強化系の二人に敬意を払っていたところで、白い蛍光灯の下、アイヴィーが頬をひきつらせてやって来た。その両手には一枚ずつの小皿。
コトリとテーブルに置かれたその二枚の小皿の上には控えめに作りたてが盛り付けられていた。
「お、タイムリー」
「なんだ?」
「何でもない」
「ならいいけど」
噂をすればだ、と心の中だけで思って新しい缶をあけようとするとアイヴィーによってその缶はヒョイと取り上げられた。
「飲み過ぎ」
「えー、俺まだ全然酔ってもないんだけど」
「お前が酒に弱くないのは知ってる。けど二日酔いになったら酷いのも知ってる」
「……じゃあ残りは水?」
そんなのヤダなーと不貞腐れてアイヴィーにチラリと視線を送る。
すると溜め息の後に、並々と酒が入り無数の水滴をその身につけた新たなグラスを押し付けられた。美味しそう。へへ、俺の勝ちだね!
「おっ、飲んでいいのー?」
「俺が出したやつなら。それならいつでも消せるんだから、仮に酔ったり気持ち悪くなったりしてもすぐに具現化解いて治せるだろ?」
ていうかこれまでの集まりでも途中からちょくちょくすり替えてたけど、と言ったアイヴィーに俺を含めたその場の団員達はピシリと固まる。
「どうりで旅団の集まりに限って飲んでも飲んでも二日酔いになりにくかったのか……」
「アタシとパクはいつも初めからアイヴィーに出してもらってたけど」
カウンター席に座っていたマチが椅子をくるりと半回転して手にしていたグラスを揺らす。カラリと涼しげな氷の音が響いた。
「ていうか……俺もそろそろ飲み食いしたいって思ってたんだけど、これさ……」
アイヴィーの呆れたような視線の先には、そのままに置かれた結構な量の空いた皿。……あれ? そういえば、
「……半分くらいは残ってるだろうとは思っ、」
「ああっ!? アイヴィーが今持ってきたつまみどこいった!?」
キョロキョロとテーブルの上に視線を巡らせてもあるのは空いた皿ばかり。アイヴィーが何か言いかけてたけど由々しき事態だからちょっと待って。
「それなら既に強化系の奴らの胃袋の中ね」
俺の質問にいち早くフェイタンが答えた。フェイの指差す先には口を膨らませたウボォーとノブナガ。え? ウソ、ありえない。
「アイヴィーが新しいの作って来るの待ってたのは俺も一緒だってのに……何で全部食べるん、いっつぅ!!!」
ゴン、と鈍い音と共にやって来た、頭部への割れるような重い痛み。
「お前はどうでもいい。作った俺がまだ食べてねぇんだよふざけんな」
「うわ、ごめんってアイヴィー……?」
まあ落ち着いて? と苦笑いを浮かべていると怒りの矛先は俺から外れたようだった。
「ノブナガ……その今飲み込んだやつ……なに?」
「そりゃー、今お前が運んできたその皿のやつだろ?」
悪気の欠片もないように平然とそう言ってのけるノブナガ。そして「おう」とそれにのっかるウボォー。
アイヴィーはそんな二人を見て怒る気も失せたのか、空虚な笑いを漏らした。なんだかすごい苦労人に見える。
「旨かったぜ」
テーブルに肘をついて頭を抱えるアイヴィーの肩にポンと手を置いてニカリと笑うウボォーにアイヴィーは「そうかよ」と投げやりに答える。
そんなアイヴィーに今度はノブナガが口を開いた。
「でもさっきのやつよりも味が薄めだったからよォ、さっきのやつみたいにもう少し濃、」
ノブナガが最後まで言いきらないうちに、強くテーブルの皿と皿の隙間に手をついたアイヴィー。
ぐらぐらと揺れて倒れそうになった俺のグラスをあわてて手に持つ。今この状態で飲み物に倒れられてもアイヴィーに「出してよー」だなんて言える状況じゃないから全力でそれだけは阻止。
「おーおー、いい度胸だなノブナガ=ハザマ? 百歩譲って料理残さなかったことはいい。また百歩譲って今まさに俺が食べようと作ってきたものを食べたのもまぁいい。それだけ腹減ってたんだよな」
テーブル越しとはいえ、手を軸にしてノブナガと目と鼻の距離まで近付いたアイヴィーの顔は俺の方からは見えない。
かなり怒ってるように見えても、謝ればどうせころっと許しちゃうんだろうから心配ないだろ、と手にもったグラスの中の酒を喉の奥に流し込む。
アイヴィーがいつもより少し低い声で「だけどさ」と言った。
「味をどーのこーの言える立場?」
どうなの? と普段の柔らかな声にもどってノブナガに尋ねたアイヴィー。それでもテーブルについていない空いたもう一つの手はノブナガの服の襟を掴んでいた。
うわ、早く謝っちゃえばいいのに。
「正直に思ったこといっただけだぜ?」
大丈夫だとでも思ってるのか、余裕を崩さないノブナガに、ノブナガの服をつかんだアイヴィーの手はグイと引き寄せられた。
その途端、カチャンと鳴った金属の音。
アイヴィーはノブナガから手を離し、不思議そうに音源を探してから数秒もしないうちに答え
それ
を手に取った。
「鍵……?」
まじまじと拾った鍵を眺めるアイヴィーに、サッとノブナガとフィンクスが見て分かるほどあからさまに顔を青くした。
いや、俺も人のこと言えない……?
「この鍵……」
そうぽつりと呟いて、アイヴィーはポケットから自身が今宿にしているアパートの鍵を取り出し、それを両手にそれぞれ持って、無言のままその二つの間で何度も視線を行き来させた。
しばらくして二つの鍵から目を離したと思えば、その二つをノブナガにも見えるように持って、そして、笑顔。
(「言いわけ、させてやろうか?」)
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「うわ、もう残ってないのかよ」
俺が強化系の二人に敬意を払っていたところで、白い蛍光灯の下、アイヴィーが頬をひきつらせてやって来た。その両手には一枚ずつの小皿。
コトリとテーブルに置かれたその二枚の小皿の上には控えめに作りたてが盛り付けられていた。
「お、タイムリー」
「なんだ?」
「何でもない」
「ならいいけど」
噂をすればだ、と心の中だけで思って新しい缶をあけようとするとアイヴィーによってその缶はヒョイと取り上げられた。
「飲み過ぎ」
「えー、俺まだ全然酔ってもないんだけど」
「お前が酒に弱くないのは知ってる。けど二日酔いになったら酷いのも知ってる」
「……じゃあ残りは水?」
そんなのヤダなーと不貞腐れてアイヴィーにチラリと視線を送る。
すると溜め息の後に、並々と酒が入り無数の水滴をその身につけた新たなグラスを押し付けられた。美味しそう。へへ、俺の勝ちだね!
「おっ、飲んでいいのー?」
「俺が出したやつなら。それならいつでも消せるんだから、仮に酔ったり気持ち悪くなったりしてもすぐに具現化解いて治せるだろ?」
ていうかこれまでの集まりでも途中からちょくちょくすり替えてたけど、と言ったアイヴィーに俺を含めたその場の団員達はピシリと固まる。
「どうりで旅団の集まりに限って飲んでも飲んでも二日酔いになりにくかったのか……」
「アタシとパクはいつも初めからアイヴィーに出してもらってたけど」
カウンター席に座っていたマチが椅子をくるりと半回転して手にしていたグラスを揺らす。カラリと涼しげな氷の音が響いた。
「ていうか……俺もそろそろ飲み食いしたいって思ってたんだけど、これさ……」
アイヴィーの呆れたような視線の先には、そのままに置かれた結構な量の空いた皿。……あれ? そういえば、
「……半分くらいは残ってるだろうとは思っ、」
「ああっ!? アイヴィーが今持ってきたつまみどこいった!?」
キョロキョロとテーブルの上に視線を巡らせてもあるのは空いた皿ばかり。アイヴィーが何か言いかけてたけど由々しき事態だからちょっと待って。
「それなら既に強化系の奴らの胃袋の中ね」
俺の質問にいち早くフェイタンが答えた。フェイの指差す先には口を膨らませたウボォーとノブナガ。え? ウソ、ありえない。
「アイヴィーが新しいの作って来るの待ってたのは俺も一緒だってのに……何で全部食べるん、いっつぅ!!!」
ゴン、と鈍い音と共にやって来た、頭部への割れるような重い痛み。
「お前はどうでもいい。作った俺がまだ食べてねぇんだよふざけんな」
「うわ、ごめんってアイヴィー……?」
まあ落ち着いて? と苦笑いを浮かべていると怒りの矛先は俺から外れたようだった。
「ノブナガ……その今飲み込んだやつ……なに?」
「そりゃー、今お前が運んできたその皿のやつだろ?」
悪気の欠片もないように平然とそう言ってのけるノブナガ。そして「おう」とそれにのっかるウボォー。
アイヴィーはそんな二人を見て怒る気も失せたのか、空虚な笑いを漏らした。なんだかすごい苦労人に見える。
「旨かったぜ」
テーブルに肘をついて頭を抱えるアイヴィーの肩にポンと手を置いてニカリと笑うウボォーにアイヴィーは「そうかよ」と投げやりに答える。
そんなアイヴィーに今度はノブナガが口を開いた。
「でもさっきのやつよりも味が薄めだったからよォ、さっきのやつみたいにもう少し濃、」
ノブナガが最後まで言いきらないうちに、強くテーブルの皿と皿の隙間に手をついたアイヴィー。
ぐらぐらと揺れて倒れそうになった俺のグラスをあわてて手に持つ。今この状態で飲み物に倒れられてもアイヴィーに「出してよー」だなんて言える状況じゃないから全力でそれだけは阻止。
「おーおー、いい度胸だなノブナガ=ハザマ? 百歩譲って料理残さなかったことはいい。また百歩譲って今まさに俺が食べようと作ってきたものを食べたのもまぁいい。それだけ腹減ってたんだよな」
テーブル越しとはいえ、手を軸にしてノブナガと目と鼻の距離まで近付いたアイヴィーの顔は俺の方からは見えない。
かなり怒ってるように見えても、謝ればどうせころっと許しちゃうんだろうから心配ないだろ、と手にもったグラスの中の酒を喉の奥に流し込む。
アイヴィーがいつもより少し低い声で「だけどさ」と言った。
「味をどーのこーの言える立場?」
どうなの? と普段の柔らかな声にもどってノブナガに尋ねたアイヴィー。それでもテーブルについていない空いたもう一つの手はノブナガの服の襟を掴んでいた。
うわ、早く謝っちゃえばいいのに。
「正直に思ったこといっただけだぜ?」
大丈夫だとでも思ってるのか、余裕を崩さないノブナガに、ノブナガの服をつかんだアイヴィーの手はグイと引き寄せられた。
その途端、カチャンと鳴った金属の音。
アイヴィーはノブナガから手を離し、不思議そうに音源を探してから数秒もしないうちに答え
それ
を手に取った。
「鍵……?」
まじまじと拾った鍵を眺めるアイヴィーに、サッとノブナガとフィンクスが見て分かるほどあからさまに顔を青くした。
いや、俺も人のこと言えない……?
「この鍵……」
そうぽつりと呟いて、アイヴィーはポケットから自身が今宿にしているアパートの鍵を取り出し、それを両手にそれぞれ持って、無言のままその二つの間で何度も視線を行き来させた。
しばらくして二つの鍵から目を離したと思えば、その二つをノブナガにも見えるように持って、そして、笑顔。
(「言いわけ、させてやろうか?」)
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