part1

* Syarnorke side


 今日は久しぶりに多くのメンバーが集まった。って言っても活動があったわけじゃない。
 俺たちは冷酷やら無情やら賞金首やら言われているけど、そんな非道徳的な集団である前に、そこらで歩いている人間となんら変わりのないただの大人でもある。活動だけが繋がりってわけじゃない。

 メンバーによっては(暇潰し等の為とはいっても)普通に働いてたりもするし、普段盗みを全くしない奴だって結構いる。ウボォーとかは盗みしかしないみたいだけど。よっ、盗賊の鑑だね。
 何が言いたいのかっていうと、今回旅団が集まったのはただの遊びみたいなものだってこと。
 適当にお酒持ちよって、くっちゃべって、ダラけて、食べて……みたいな感じで。それぐらい皆もするだろ?
 生憎、普段から危険に身を置いてられるほど若くないからね。

 例えばアイヴィーだけど、出会ったばかりの時は両手で数えられる程度だった年だって今じゃどちらかといえば20よりも30のほうが近いんだから。
 ま、アイツの場合元々の顔立ちもだけど、俺たちみたいな念を使える奴──つまりは生命エネルギーを操れる人間──は、普段から上手く制御してさえいれば、普通の人間と比べたときに目に見えてわかるほど老けにくい。
 ハンター協会の現会長なんかもう何歳なの? って具合にね。

 だから服装さえ若者らしいそれにしさえすれば、メンバーによってはゴテゴテの化粧や、ジャラジャラした装飾をつけて粋がっている若者より断然若くも、小綺麗にも見える……って思うんだけどどう?

 おっと閑話休題。

 俺たちはお金に困ってるわけでもないし、こうして集まって怠けてるくらいが正直丁度いい。俺なんか活動のたびに情報収集にこき使われるんだから……って言うと活動が嫌みたいに聞こえるけど、逆だからそこのところ誤解はしないでいてよね。


 今回集まったところはいつのように廃ビルでも何でもなく、都市の外れに位置する綺麗な建物だった。
 さっき聞いたところによると、小規模な簡易パーティー等などでよく貸し出されている建物らしい。自分達のように十人前後が集まるのに最適な広さで、きっと元飲食店だったのだろうと思われるつくりをしていた。

 多分アイヴィーあたりが今日のために予約でもしたんだと思う。アイツがそういうことしなければ今日もきっといつものように廃屋だったはず。
 今回の集まりでは別に法に触れることをするわけでもないから普通に足が掴めるようなこういう場所に集まろうが問題ないし、事実、呑むなら汚いよりも綺麗がいいに決まってる。


「あっ、これ美味しい」


 さっきマチによって運ばれてきたばかりの小料理を何の気なしに口に運ぶと、好みの味だったそれに驚く。
 ほどよく濃いめの味付けが酒にぴったりだ、ともう一つその酒の肴をとろうとすると目の前からスッとその料理が皿ごと消えた。
 そして消えた皿を目で追うと、そこには先まで俺の前に置いてあったはずの皿を大きな手でつかんで料理を一気に口のなかに流し込むウボォーの姿が。


「あっ、このやろ、全部食べたな!」
「早い者勝ちだぜ? シャル」


 口いっぱいにおかずを詰め込んでニヤリと笑うウボォーに、その隣にいたノブナガはカッカッカと大口を開けて笑う。


「まぁそう怒るこたねーぜ、シャルナーク。それアイヴィーがつくったやつだろ?」
「そうなの?」
「どうせまだ厨房の方にいるんだからまたつくってもらえばいい。今日は作るのに最適な環境がそろってるっつってアイツ楽しそうだったからよ」


 そう言って缶ビールに口をつけるノブナガ。アイヴィーの奴、だからさっきから姿が見えなかったのかと納得して俺もノブナガ同様缶を傾ける。
 アイヴィーも早くこっち来て一緒に呑めばいいのに、と思ったところでウボォーが口いっぱいに詰めていたものをごくりと大きく喉仏を動かして飲み込んで、満足そうに一呼吸置いてから口を開いた。
 ……俺は全然満足じゃないんだけど。


「ま、どうせどのつまみもアイツが念で出した食材で作られたやつだからよ、今腹いっぱいになろうが明日には消化された栄養まで綺麗さっぱり消えちまうんだろうけどな」


 ウボォーは力強く自身の腹を叩く。女子の味方な能力だなと言うと、すぐに意味を理解してくれたらしく、そりゃそーだと言って二人とも笑った。


◆ ◇ ◆



「てかアイヴィーって何もないときどんな暮らししてんだ?」


 ふと思い立ったようにそう口にしたのは本日何本目かもわからない缶ビールを飲み干して空き缶をトラッシュボックスに投げ入れたノブナガ。


「皆と別に変わんないと思うけど? ホテル転々としたり適当なアパート借りてたり……あ、お前ら二人とは違ってちゃんと働いてたりはするかな。気まぐれにだけど」
「へえ。案外普通だな」
「アイヴィーは旅団のなかでは普段一番社会に溶け込んでるよ、きっと」
「……あー、なんか想像はついてきたな」
「この前ホテルに飽きたからって久しぶりにアパート借りたとかアイヴィー言ったから、試しに行ってみたら普通に無防備に寝てたんだ。これ合鍵」


 ポケットをあさってでてきたそれをノブナガに投げ渡す。


「テメぇらそういう仲なのか……?」
「うげ、止めろよな! そういう誤解!」


 驚かせてみたくてこっそり作ったんだと弁解するとノブナガはあからさまに引いていたような顔を元のそれに戻した。

 ま、結局まだ驚かせられてないんだけど。
 侵入ってみてから、怒らせると不味い気がして引き返したんだっけ。


「知ってる? アイツ家だと普通にTシャツとかスウェットとか着るんだよ?」


 そう言ってアイヴィーが新しいつまみを運んでくる間の繋ぎに誰かが買ってきていた既製品の袋を開ける。
 一口食べて物足りないと感じるって、あれ? 俺結構アイヴィーに胃袋つかまれてる……?
 想像してうっわ、と漏らした声は割り込んできたフィンクスの「はァ!?」という驚きの声にかき消された。


「いくらなんでもそこまで驚く?」
「いやだって想像つかねぇだろーが」


 実際に想像してみているのか、眉間にシワを寄せるフィンクスは低い声で唸る。俺の後ろにいたフェイタンに目を向けると傘の先を研いていて、ああ興味ないんだなコイツと一目で分かった。


「アイヴィーだってずっとあんなお堅い服なんて着てらんないってことだろ」
「疲れそうな服だしな」


 フィンクスとは違ってノブナガとウボォーの二人は納得したのか、さして驚く様子もなく俺が広げた先のつまみを口に運んだ。
 大量に食べてからなんか味物足りねーな、と首を捻るウボォーに、こいつもかよと内心ツッコミをいれる。「そりゃアイヴィーのせいだぜ」と笑ってそう言うノブナガもきっとそうなんだと思う。

 くっそ、どうせなら可愛い子に餌付けされたかった。


「あ、そうだ。その鍵あげるよノブナガ」
「俺が貰ったって何のメリットもねェな」


 いらねェよ、とノブナガが投げ返してきた鍵を頭をずらして避けると後方にいたフェイがそれを受け止めてノブナガに向かって投げ返した。


「……能力は一対一専用て言てもいいくらいなのに、なんだかんだいつも勝てない奴がよく言うね」
「あ?」


 フェイは相変わらず喧嘩売るの上手いというかノブナガが短気なだけか(おそらく両方)、一気に場の空気が不穏なものになる。
 しかしそんなことも気にしないで飲んでは食べを繰り返していたウボォーの「もしかすると弱点が見つけられるって言いてーんだな?」という言葉に、ノブナガの機嫌は元に戻った。

 ウボォーって以外と頭回るんだよな。ただの筋肉馬鹿じゃない。


「家の中ではスキとかクセとか普通に出すよ、どんな奴でも」
「後はノブナガの絶次第ね」


 ニヤリと意地悪く笑うフェイタンに、ノブナガは先程とは打って変わって鍵をキツく握りしめた。どうやら話にノッたらしい。
 オレだって絶はした。けど、なんか嫌な予感して直ぐに出ていったっていうのに……鍵を渡しておいて言うのもアレだけど、よくやるねノブナガ。
 俺はここで健闘を祈ることとしよう。


「その話俺も混ぜてくれよ。腕相撲で勝てても、戦いで勝てなきゃ意味ねーからな」


 首をコキ、と鳴らしてそう言うのはフィンクス。
 そういえばまだ勝ててないんだっけ。アイヴィーが全然闘いに応じないってのも勝ててない理由の一つだとは思うけど。
 好戦的なのか厭戦的なのかよくわからない。嫌いではないんだと思うけど。
 それと、変なところで面倒臭がりなくせに何故かいつもなんだかんだ面倒臭いことに巻き込まれてる気がする。早死にしそうだ。

 弱点の一つくらい見つけてーな、とニヤリと笑うフィンクスに俺は乾いた笑いを漏らした。




(……改めて強化系の単純さに感服)


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