後悔先に立たず、とはよく言ったもんだね
「ほらね?だから言ったでしょ。君はその甘さ故に死んでしまうって」
手にベットリとついた血を舐める。
鉄臭くて、苦くて、そして、どこまでも甘い紅。
普段はこんな散らかしたりしない。
辺り一面を紅いソレで塗り潰す程、下手でもない。
どこぞのピエロでもあるまいし。
オレだってプロだから。
流石に父さんには敵わないけど。
「あれ、もう壊しちゃったのかい?」
「うん」
「それは残念」
ちっとも残念そうにみえないピエロが笑った。
ニヤニヤとコチラを眺める彼に、何?、と問えば返ってきたのは、別に、という言葉。
相変わらず言葉遊びが好きなヤツだ。
こうなったのも全部このピエロが発端なのだけど、特に責めるつもりもない。
所詮、ただの暇つぶしだったんだから。
そう、ただの暇つぶし。
でも、本当にそれだけだったのかな。
***
「ねぇ、依」
「何?」
「別に呼んだだけ」
そう、と何時ものように素っ気ない反応の彼女の名前は依。
彼女とはヒソカを通して知り合った。
ヒソカいわく彼女は自分の好みに育てるのを失敗した果実らしい。
彼好みの強い子に育てようと訓練をしたら逆に念が使えなくなってしまった、とのこと。
でも、面白いから僕にくれたらしい。
意味わかんない。
「ねぇ、依」
「ん?」
「なんで念、使えなくなったの?」
そう問えば、眉根を曇らせて睨みつけてくる。
別に殺気もないし怖くない。
だけど、彼女にはこんな顔して欲しくないとは思う。
どちらかといえば彼女の笑った顔が好き。
「イルミには関係ないでしょ」
「確かに」
「そこで納得するの、イルミらしいよね」
はぁ、と呆れたようにため息をつく彼女。
その瞳は驚く程深い深淵がある。
ヒソカが面白いといった理由は恐らくコレだろう。
念も使えない、殺気もだせない、出来ることは殺すこと。
その殺しも詰が甘くてよく怪我をする。
そんな彼女。
「別に簡単だよ。ヒソカの変態振りに嫌気がさしたの」
「だって、ヒソカ」
「酷いなぁ、変態だなんて」
「その話し方が気に食わないの、変態ピエロ」
ヒソカから距離を置くためにオレの後ろに隠れる依。
ふとした仕草が小動物じみていて少し面白い。
そんな小動物じみた彼女を見て、気持ち悪いぐらいニンマリ笑うヒソカは本当に変態だと思う。
変態中の変態。
その名も
「ド変態ピエロ」
「ククク、酷いなぁ、イルミも」
「イルミが始めてマトモな事を言ったような気がする」
何だかんだ言って、僕は彼女に少し心を許していたんだと思う。
じゃないと、こんなにももったいなかっただなんて思わないだろうから。
***
彼女には血を分けた双子の兄がいた。
二卵生のためか全く似ていないその兄を酷く慕っていた依。
だけど、その兄は殺された。
オレの目の前で。
別にオレは彼に対して何も思ってなかったから、あぁ死んじゃったな、ぐらいだったけど依は違った。
喉が枯れるほど泣き叫んで、涙がでなくなるほど涙を流し続けた。
そして、復讐心で濁った彼女はオレに言った。
「お前が、兄さんを殺した!!」
「何言ってるの?僕がこんな散らかす分けないでしょ」
オレの目の前で兄は死んだ。
その時、オレの周りには誰もいなかった。
だから、兄を殺したのはオレしかいない。
だなんて、よくわからない理論並べてまくし立ててきた。
挙句の果には彼女の武器である双剣まで構える始末。
普通に考えて、アレは念能力でしょ。
でも、よくよく考えれば依は念が使えないから念能力だなんて考えは出なかったのかな、とも思う。
でも、それは後の祭りで。
だって彼女はたった今壊れてしまったから。
僕の手によって。
「ヒソカのせいで面白いオモチャがなくなっちゃったじゃん」
「アレは元々僕のなんだからどうしたって勝手だろ」
「わりと気に入ってたんだよ、オレ」
「でも、実際に壊したのはキミだろ」
そう、実際に壊したのはオレだ。
オレの言葉を信じないでヒソカの言葉を信じた彼女。
念も使えないような甘い君じゃあ死ぬことなんて分かりきっていたのに。
ほんと、バカだよね。
「………まぁ、自業自得なんじゃない」
「ククク、やっぱりキミは変わらなかったね」
「何が?」
ニヤリと笑ったピエロは楽しそうに笑い続ける。
こんなに笑ってるのって興奮してる時しか見たことない。
ヤダな、キモい。
「依の念能力はね、人を懐柔させる力なんだよ」
「懐柔?」
「そ、本人には念が使えなくなったからキミにあげることにしたって言ってあるけど、本当はキミを試してみたくなってさ」
キルアに闇人形としての生き方を強いるキミが、果たして彼女に懐柔されるのかな?ってね。
なんて言って笑った。
相変わらずこのピエロはたまにムカつく。
【 君の事、心から大切だったんだ。でも、もう信じてくれないんだね。自業自得だ 】