来訪

皆んながそれぞれの地に転校して数ヶ月。
一気に周りにいた親しい人が数十人居なくなって寂しさはやはりありその度にサッカー部の人達に連絡をしていたが彼らも忙しさがあり頻繁に連絡することができなかった。
「と、言うことで来た」
「お前なぁ…」
目の前の風丸は眉間に皺を寄せていた。
「ホームシックならぬサッカー部シックなのー」
ここは帝国学園サッカー練ミーティングルームである。
「…というより、どうやって入ってきた」
「源田」
「あいつ…」
風丸は無意識に頭が痛くなる感じがした。
名前の回想によれば

着いたはいいがどこから入ったものかとサッカーグラウンドの入場ゲート前で行ったり来たりとしていたらどこからともなく源田が駆けつけてきて
「名前!どうしたんだ?帝国に用事か?」
「いやぁね、サッカー部シックだからとりあえず近場にある帝国に来た」
「そうか!連絡をくれれば迎えにも行ったのに…立ち話もなんだ、サッカー部用のミーティングルームに案内しよう」

「…って感じに」
「頭が痛い」
我慢していたがつい言葉に出てしまった。
源田はなにかと名前に対して甘いを通り越してゲロ甘なのである。恋は盲目とは恐ろしい。
「帝国はまだ監督さん決まってなかったよね?」
「あぁ、協会からは追って連絡すると言われてそのままだ」
「ふーん、まぁ影山零治以外だったらなんだっていいと思うけどね」

影山の縛りからやっと解放されて自分たちの
サッカーをする事が出来ている彼らに少しでも
マシな監督が付きますようにと胸中で願う

「マトモな監督だと良いんだがな…」

そんな名前の気持ちを察してか風丸も
苦笑いを零す。そんな中ドアの方から何かが激突した鈍い音を立てた。
そちらに2人揃って視線をやると自動ドアがひらき開いた瞬間勢いよくそれ名前の元に来た

「名前!飲み物と茶菓子を用意した!」
名前をミーティングルームに招き入れた源田本人である。
ありがとうと伝えて彼の手にあるペットボトルの紅茶とクッキーをもらう。

「源田、甘やかしも大概にしろ」
そんな咎める風丸の声もなんのそのというより
彼の耳にその言葉は届いていない
源田に続いてゆっくりと入室してきたのは帝国のストライカー佐久間だった。

「よお、苗字」
「あ!佐久間久しぶり」
「こいつ自動ドア開く前に突っかかってやんの」
はっはっはっ!と声を上げて笑う佐久間の姿に
この人もあたしに対して丸くなったなぁと感心する。
「でもこのお菓子どうしたの?」
渡された可愛らしいラッピングをされたお菓子に
まさか常備してるわけないだろうと不思議に思い聞けば
「ん?あぁ、調理実習があったと女子からもらったものだ」
「いや、流石にそれ聞くともらえない」
名前の言葉に風丸、佐久間は大きく頷いた。何より渡した相手が可哀想だ

「…手作り苦手だったか?」
「そこじゃない!」
斜め上の回答が返ってきてしまった。




「そこ!タイミング遅れているぞ!」
「おぉ…風丸が指導してる…」

あのあと折角だから練習見ていけばいいだろと
佐久間に誘われてミーティングルームから
グラウンドに案内された。

何名かには「え、なんでお前ここにいるの?」みたいな視線が来たが
その後隣の源田に視線をやる度みんな顔を青くして「ゆ、ゆっくりしていけよな!!」と引きつった顔を見せた。
何だ何だと何度も源田を見上げたがその度彼は「どうした?」と優しい顔で聞いてきてくれた。皆んなは何を見たというんだ。

基礎の練習が終わり今は紅白試合を観戦している。
みんなそれぞれチームワークが出来ていて個々のレベルがそこらへんの学校とは段違いだ。

「あえて言うなら司令塔が居なくて判断が数秒遅れる事かな…後持ち直しも少し遅い」

以前の鬼道がキャプテンとして引き連れていた彼らのプレーを見た事があるから気づけた事である。
全員の意思統一それが帝国の持ち味なのだ、ほんの少し前と遅いだけでこのチームには痛手となるがそれを個々の技術でカバーをしている。

丁度水分補給でベンチに来ていた風丸が目に入り声をかける。
「ねぇ風丸ー」
「どうした」
「あのさ」
見ていて思ったことをポロポロと口に出して零すとポカンとして風丸はこちらを見ていた。

「え、なに」
「名前が、サッカーについてちゃんと話してるのが珍しくてな…」
「髪の毛散切り頭にすんぞ」
「ははは、その時は疾風ダッシュして背後を取ってやられる前にやる」
「ごめんなさい」

「まあ、でもプレイしているあいつらがそれは一番わかってるし違和感としてやはり出てしまうんだよな」
「うーん、何処を強化していくかによるよね」
新たな司令塔を作るか、はたまた違う部分を伸ばしていくか、課題は山積みである。

部活終了後どうしても家まで送ると頑なに源田が言ってきたので行為に甘えて一緒に帰ることにした。
「そろそろ新学期になるね」
「あぁ、新入生に遅れを取らないよう気を引き締めなければ…」
「源田はなんてたってキングオブゴールキーパーなんだから大丈夫だと思うけど?」
「慢心は足元をすくわれる」
勝ち続けていた彼の慢心を打ち崩し成長させたであろうストライカーたちの姿が目に浮かんだ。

ふと源田が立ち止まりなんだろうと振り返ると真剣な眼差しの彼がそこにいた。

「名前、今からでも遅くない。帝国にこないか…?」
「うーん、でもあたし今サッカーできる足じゃないよ?それに教えれることなんてないし…」
あたしが教えた日にはサッカー部が野球部になっちゃうよ?と冗談も交えると彼は優しく笑った
「俺を…俺達を支える側になって欲しいって言ったら迷惑か?」
「マネージャーか…それもそれでいい道かもね」
考えておくよと返せば彼は目を細めて満足そうに「あぁ!」と返してくれた。

だがそれも後の緊急事態によりお流れになってしまうのは今はまだの話。



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bkm

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