売られた喧嘩

「大分回復してきたね、いい調子だ」
「そりゃあいい子にリハビリに励んでますからね!」

月に何度か行う検診に今日病院にきていた。
担当してくれている先生は男性にしては長いポニーテールを揺らしじっと見つめてきた

「いい子なら回復してない足でサッカーしたりしないと思うんだけどなぁ…」
「ひぇ…ごめんなさい」

とっても素敵な笑顔(目は笑ってない)で見つめられ咄嗟に謝罪の言葉が出る。

「なんで、先生知ってるんですか…」
「そりゃあ雷門の子達にキミが激しい運動をしてないか、してたら連絡する様に強く念押ししてたからね」
「みんなが裏切り者だった!!」

あれから帝国に遊びに行ったり木戸川に遊びに行った先でちょっっっと我慢ができずサッカーしただけなのに先生には筒抜けのようであった。

「キミがサッカーを好きなのは充分承知してる、けど今のリハビリをしっかりして足を回復させないとキミいつまで経ってもフルタイムでサッカーできないよ」
「うっ…善処します…」
「あ、それ答えいいえじゃないか!知ってるぞぉ!」



「こってり絞られた…」
あれから色々と足に負担をかけることの重大さなどをいっぱい説明され終わった頃にはゲッソリとしていた。
トボトボと診察室から出てそんなに酷いのかこの足はと見た目はにもう損傷がない左足をプラプラとさせながら変な歩き方をしていたらつまづいた。

「あ、わひょっ!!」
つんのめって転びそうになったが角から出てきた人とぶつかり転ぶことは回避できた。
「ってぇ、」
「ご、ごめんなさい!」

色黒で銀髪そして着崩された制服いかにも不良ですという感じの病院の清廉さとはかけ離れた外見の男の子がそこにいた。
ぼーっと見ていると彼は苛立ちを見せて鋭い目線を寄越してきた。
「いつまで寄っかかってんだよ」
「ごごごごめんなさっ、いった!!」
「っおい!」
離れようとしたら彼の制服のボタンに髪の毛が引っかかって離れようとしたらブチブチと嫌な音を耳が拾った。
「おい、待て!!」
すると彼は離れようとする名前の頭を引き寄せて胸に押し付けた
「へ?へ?あの?」
「じっとしてろ」
「ひゃい!」
何やらゴソゴソと動いてるようだった。大人しく待っていればすぐその手は止まり

「取れた。おい、離れろ」
「うっす!!」
勢いよく離れると彼は不躾にジロジロとこちらを凝視してきた(人のこと言えないけど)と思えば口を開いた。
「…あんた雷門の苗字名前か…?」
「うん、そう…です…」
居心地悪そうにその質問に肯定すると


「はっ、"神を討つ流星"とか大層な名前な割にチビでひょろいな」
「お"お"ん?」

フッと小馬鹿にするように鼻で笑ってくる彼に沸点の低いあたしは沸騰した。
てかその二つ名的なのあたしがつけたんじゃないし!周りが勝手につけたんだぞぉ!!
元々売られた喧嘩は爆買いするタイプなのでお買い上げしてあげることにした。

「おい外出ろや、いや、連れ出す」
「は?おい!離せ!」
ソフトボールで鍛えた握力は健在だったようだ。彼が振りほどこうともがくも簡単には解かれない。踏ん張って何とか外に連れ出そうと試みる。
「っ!どっからんな力でてんだよっゴリラか!」
「元ソフトボール部の握力舐めんなよーあんたが喧嘩叩き売りしてくれたからお買い上げしてやんよ」
「離せっ!面会時間なくなんだろうがっっ!」
「あ、面会あんの?じゃあどうぞ」
「どぉわっ!?」
面会という言葉を聞いてそれはたしかに
時間はないなと気遣い手を離してやると逆方向に踏ん張っていた彼は転びそうになる。
咄嗟に腕を掴み直しそれを阻止した。

「わ、大丈夫?」
「離せっゴリラ!」
「転ばせときゃよかった」
態勢を立て直したとたん悪態と共に腕を振りほどかれた。
「じゃあな苗字ゴリラ」
「ちょっ!待てコラ!ガン黒ロンゲ!」
トントンと肩を叩かれなに!?と振り返ると主治医の先生がそこにいた。笑顔だけど顔には静かにしなさいと物語っていた。
「名前ちゃん、ここ病院」
「ひぃ!!先生!違うんです!あたしじゃないんです!!」

その場にはもうあたししか残っておらず
疲れてるんだねと哀れみの視線をもらい終いには飴とジュースをもらった。
それをチビチビ飲みながら携帯をいじったり暇を潰してると彼は出てきた。
「あ、出てきたな」
「あ?」
わざわざ待っていたあたしに驚いたのか顔を少し引きつらせた。

「面会大丈夫だった?」
「なんでお前に心配されなきゃならねーんだよ」

近寄って聞いてみれば顔をそらして彼は歩き始めた。それに続いてあたしも歩みを始める。チラッとこっちを見てきたと思ったら舌打ちをしてそのまま足を進める。

「いや、喧嘩売られたとはいえ引き止めちゃったし」
「気持ち悪ぃ良い子ちゃんぶるなよ」
「一々癪にさわるなぁ…」
言葉は返してくれるものの一言一言がトゲが付いている。

「あ、そだ名前、教えてよ」
「なんでテメェに教えなきゃならねーんだよ、んな義理ねぇ」
「名前ぐらい聞いても損はないでしょう」

「…灰崎凌兵」

ボソリと小さい声で名のなれたが地獄耳なあたしはバッチリと聞き取り案外お話してくれるもんだなぁと1人心の中で思った。
そういえば彼の着ている制服は鬼道や春菜ちゃんが転校した星章のものと似ていたのでふと話の種を振ってみた。

「その制服星章だよね?春休みなのになんで制服?」
「今日、制服届いたから見せに来ただけだ悪ぃかよ」
「着崩してる癖にいい子…!!」
「うっせぇ!!頭かち割んぞ!!」
「あははは…まって、今日届いた?」
「あ?耳おかしいのかそう言っただろ」
「え、え、灰崎くんもしや新入生?ついこないだまで小学生??」
「うっせぇな!それがどうしたっていうんだよ!」

背も高いし顔つきも大人っぽいからてっきり同い年かとおもったらどうやら彼はつい最近までランドセルを背負った小学生だと判明。
もうさ、そんなのを知ってしまったらさ、不躾な態度とられてもどう見ても…

「ひぇぇ〜途端にイキってる様にしか見えない〜!かあいい!」
「っ!!殺すっ!!」
あ、やべ、つい声に出ちゃったと思っていると
グルンっといきなりこっちを振り返ったかと思ったら首根っこ掴まれて路地の方へと引っ張られていく。

ある程度奥まったところに連れてこられたと思ったら壁に押し付けられた

「いったいなぁ!なにすんの!」
「お前、この状況でよくまだ無駄口叩けるな」
ドンっと顔の真横で拳を叩きつけられ
おお、所謂壁ドンってやつですね先生とか悠長なことを考えていたら
鋭い目線で睨みつけてきた。

「今度またふざけた事言ってみろ引っ張るだけじゃすまねぇからな」
「物騒だなあ」
「…お前と話してると頭が痛くなる」
本気にしないあたしに呆れたのか
掴まれてた襟元がはなされ彼は足早に去っていった。
お尻のポケットから覗くクマのストラップがギャップをより引き立てていた
それを見てしまったからには堪らず言葉が漏れたがその言葉は誰にも拾われなかった。

「うっわ、かわゆ」




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bkm

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