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「さ、遠慮はいらないなんでも頼んでくれ」

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「えーっと・・・」

「ん?どうした?」

「なんであたしスティーブンと飯食ってんだろう」
目の前にはスティーブン
視線を少し下せば綺麗に平らげたランチプレート

「俺が奢ってるからだろ?」

そう、今日は資料を読み漁っていたらスティーブンに声をかけられ
外へ連れ出されたのである

「いやいやいやいや、昨日と言い、今日と言い…」
軽くジト目でスティーブンを見やると

「昨日の今日だから…だろ?」
彼はしなやかな指を組みくすりと笑いかけた
そこら辺のお嬢さん方からは溜息とうっとりした視線
向かいの席にいるあたしがいたたまれない

「キミ、朝から書庫に籠ってたじゃないか言っただろ?焦るのはよくない」
「そう、だけど・・・」
ヂュッと音を立ててストローからアイスティーを飲み込む

「キミも言ったじゃないか、後は帰る方法のみ、僕らにも任せてくれ」
「ありがとう・・・」
「うん、それでいい」
なし子の返事に満足したのかポンと頭をひと撫でし、
立ち上がり

「さて、お嬢さんこれから散歩でもどうかな?」
紳士的に手が差し出された
「あたしと歩いても飾りには見えねーぞ」
手から視線を離し不貞腐れる終いにはストローをがじがじと噛みだす
「キミを飾りだなんて恐れ多いよ、ただ僕はなし子と話したいだけさ」
「うさんくせー」
溜息を盛大に吐き出しなし子は立ち上がる
「そうだなー公園前のドーナツで手を打とうか」
ニヤリと彼女はスティーブンを見やり歩き始めた
「ははっ敵わないなぁ」
彼もまた笑いながら歩み始めた



「甘いな、コレ」
「疲れた時には甘いものっていうからねー」
場所は変わり公園へと赴いた2人
なし子に勧められるままに買ったドーナツは
ホイップとチョコがふんだんに使われ見た目はケーキの様にも見える
「それにしても・・・おぉっ!?」
声をかけようとして、スティーブンに向いたところで止まった
「ん?どうした?」
彼女がいきなり自分を見つめ止まったので不思議に感じ小首をかしげる
「ぶっ・・・・ちょっ・・・」
なし子は下を向きブルブルと肩を震わす
「く、、、、」
「く?」
「っっあっはっはっはっは!!!」
耐えきれず彼女は盛大にも笑いだした
そう、スティーブンの口の端、鼻頭にはクリームが付いていた
「!!キミ、笑ってないで教えてくれよ・・・・」
彼は常備している鏡で顔を確認し急いでティッシュで拭き取る
「まあでも笑えるならまだマシかな」
「は?」
「昨日の君、らしくなかったからね」
スティーブンなりの励ましなのだろう
なし子は彼の気遣いに胸が暖かくなる
「さて、日も暮れてくるし帰ろう」
「ん、」
帰ってから待っている報告書、記録書、書類の山々を思い出し
スティーブンは少し眉間にしわを寄せる

「手伝うから」
ボソリと彼女は小さな声で呟いた
「ん?」
「書類、溜まってたのにあたしと出かけてくれたからお礼に手伝うから」

ぷいっとそっぽを向きながら答えるがそんな行動が何とも言えず
静かにクスリと笑う

「ありがとう、じゃあザップの報告書の催促をお願いしようかな」

「任せて」
彼女は満面の笑みでグッと親指を立てた




「少しは近づけたかな」
スティーブンは何故だか緩んできてしまう口元をとっさに手で隠した
「なんか言ったー?」
「いいや」
2人はクラウス達にお土産のドーナツが入った袋を抱え
ライブラの事務所へと歩き出した



まだこの気持ちに名はない


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bkm
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