*氷福20歳台



ピンポーン

夜遅くに一人でコーヒーを飲みながら最近買った時代小説を読んでいると、部屋のインターホンが鳴った。誰だろうかと予想しつつドアを開けるととたんにむわっと酒の匂いが広がった。匂いの原因となっている相手は蜂蜜色の髪をゆらゆらと揺らしながら俺を見るとへらぁと笑った。

「あ〜氷室ら〜」

「はあ…今度はどのくらい飲んだんですか?」

「ん〜とね〜焼酎を〜たくしゃんと〜日本酒をたくしゃ〜んあとね〜ビールも〜」「いや、もういいです」

予想通り泥酔した福井先輩だった。会社員の先輩は接待だとか何かと理由をつけて開催される飲み会に真面目に参加するタイプだった。相手に勧められたら断ることができないという詐欺にひっかかりそうな人柄なため、自分の許容範囲以上に飲んでしまう。はあ、とため息をつきながら半分眠りかけている先輩をひょいっと抱き上げる。

「持ち上げんら〜一人れ歩ける〜」

「ダメです。先輩フラフラじゃないですか」

「う〜」

相手の言葉に半分適当に返しながら寝室に足を進めると先輩は俺の首の後ろに腕を回してぎゅっと抱きついてきて、首もとをくんくんと嗅いできた。俺を煽ってるのか、この人は。

「ひむりょシャンプーの匂いら〜」

「そうですね…あ、お風呂入りますか?」

「やら〜れも〜服脱ぎたいれふ…」

ベッドに先輩を横たわらせて枕元に座りながら髪を撫でる。先輩は脱ぎたいというとバンザイするように腕を上に上げた。脱がせろ、ということだ。俺は先輩を上半身だけ起こしてベッドのサイドに座らせて俺は股に入り込む形で床に立て膝をついて先輩の服に手をかける。まず上着を脱がせてからネクタイを抜き取る。シャツに手をかけてボタンをぷちぷちと外していく。ベルトに手を掛けてかちゃかちゃ外してズボンを脱がす。下着だけになった先輩は満足そうにごろんと横になり布団を自分に巻き付けるように被っていた。俺が脱がせた服を畳んでいると先輩が服を引っ張ってきた。

「どうしましたか?先輩」

「ん〜…ちゅーしらい〜」

「…はいはい」

振り替えると先輩が首に腕を回して抱きついて顔を近付けてきた。酔っぱらっている先輩はいつも俺にキスをせがんでくる。キスといっても恋人がするような濃厚なものではなく、唇を触れさせる程度の軽いキスだ。俺は手を腰に回して先輩をこちらに引き寄せる。目を閉じる先輩の唇に唇を合わせる。柔らかい質感が唇に触れる。先輩は嬉しそうに俺の唇を啄むようにキスをしてくる。優しく抱き締めると安心したように身体の力を抜いた。

「ん…眠い………」

「もう寝ましょうか」

何度も何度もキスをすると先輩が俺の肩を押して制止してきた。手を離すと先輩はごろんと横になり目を擦った。その可愛い仕草に思わず口元が緩むが、理性が制止してくるので我慢する。布団をかけてやると先輩はもう寝息をたてていた。一緒の布団に入り眠ろうかとも思ったが酒の匂いに頭が痛くなってきたのでソファに掛け布団を持っていきそこで眠りについた。


先輩はいつも可愛くてかっこよくて、高校のころからずっと皆から頼りになってWCでタイガ達と戦って負けて、みんなが涙を浮かべる中皆を激励してくれた。多分泣いてる所など見たことがないし、誰かに甘えることなんてしない。そんな先輩が、酔っぱらっているとはいえ毎回部屋に来て、子供みたく甘えてくれるなんて

そんな


なんて贅沢なことだろうか






「ん……」

朝目が覚めると台所から味噌汁の匂いが漂ってくる。寝呆けながら台所に行くと、昨日と同じスーツを着た先輩がご飯を作っていた。

「あ、氷室すまないな…また部屋間違えてたみたいで…」

「別に構いませんよ。体調、大丈夫ですか?」

「ああ、まあ少し頭は痛いがな…あ、お詫びってことでいつもの作っておいたから」

「ありがとうございます」

こういう時先輩は毎回先に起きて冷蔵庫にあるもので朝ご飯を作ってくれている。先輩曰くお礼らしい。先輩はご飯を作り終えると自分の部屋に戻っていく。自分の部屋といってもまあ隣なんだけれど


先輩のいなくなった部屋でいつも通り先輩のつくってくれたご飯を食べる。




今日もまた、部屋のインターホンが鳴らないかと楽しみにしながら







 ̄ ̄ ̄ ̄
学校の団体訓練の練習中って妄想するのにぴったりだと思うんです