俺はヒロトの部屋の前にに来ていた。軽くドアを叩くと小さな声とともにドアが開いてヒロトが顔を出した。白い肌は青白く、さっきまで吐いていたか、今にも吐き出しそうな顔をしていた。ヒロトは蚊のような小さな声で

「ごめん……今日は帰って…」
「な…どうしたんだよ…そんな顔見て帰れるかよ…」

ドアを閉めようとするヒロトの手を掴み、ドアの隙間から押し入るように入る。念のために鍵を閉める。俺がヒロトに向き直るとヒロトはおどおどして、目を合わせようとしない。いつもふわふわしてるようで芯の通ってるヒロトは見る影もない。俺が近づくとヒロトは後ろ歩きに離れようとする。大して広くない部屋でヒロトが壁に背中を預けるのに時間はかからなかった。

「ホント、どうしたんだよ…?顔色も悪いし…」

「やっ………!」

俺がいつもやるように頬を撫でようと手を近付けると、おもいっきり振り払われた。

一瞬怯えた目で俺を見ると、きょどきょどし始めた。ヒロト自身でも自分がしたことに驚いているようだった。

その時ヒロトの首筋に蚊にさされたような赤い鬱血があるのに気が付いた。虫刺されではなさそうなそれと手を振り払った時のヒロトの表情のそれを見て、嫌な予感がした。

「ヒロト……それ…」

「…っ…こ、これは………」

俺が指摘するとヒロトはぱっと首筋を手で押さえた。ヒロトの反応でその鬱血がキスマークであると確信した。

「誰にされたんだよっ!!」

俺が壁にどん、と手を叩きつけるとヒロトはびくりとして、目から涙を流した。

「や…嫌わ、ない……で…こ…わかっ、た…」

しゃくりあげながらヒロトは嫌わないでと繰り返した。この様子だと誰かとナニをしたというより誰かにナニをされたといったほうが正しそうだった。俺はヒロトに背を向けると、ドアの鍵を開けて出ていこうとした。

「やっ…風丸君っ…!!行かないでっ…嫌わないで…!」

「……すぐに戻る」

俺はヒロトにそれだけ言うと部屋を出ていった。









「円堂、いるか?」

「風丸か?今開ける」

ドアを開けて円堂が出てくる。円堂と俺は告白した後も比較的しゃべっていた。

「お前が来るなんて珍しいな」

「円堂、お前に聞きたいことがあるんだが」

「ヒロトのこと、だろ」

俺が驚いた表情で円堂を見ると円堂はにこりと笑った。ただ目は笑ってなかった。

「来るとは思っていたが…意外と早かったな」

「円堂…お前が、」

「そうだよ?お前だって薄々分かっていた、だから来たんだろ…?」

「……」

「俺はあいつが好きなんだよ、ヒロトのこと大して知らないお前よりはな」

俺は円堂の言葉に言葉を詰まらせる。確かに付き合い始めたころは円堂のことが忘れなかった。でもそれでもいいというヒロトと付き合い始めた。円堂からしたら、振った相手が自分の好きな奴と付き合い始めたなんて奪われた気分だろう。

でも………

「でも、…俺は円堂、お前じゃなくてヒロトが好きなんだ。両思いなら付き合ってるのになんら問題はないだろうっ!」

「知ってるさ、それぐらい。欲しい物は力ずくで奪うだけ、」

「っ!!!」

俺はカッとなって、円堂を殴ろうとした。

「やめてっ!!!」

後ろからヒロトに抱き締められた。いつの間に部屋に入ってきたのか気が付かなかった。

「なっ…!!ヒロト離せっ!!!なんでこいつ庇うんだよっ!!」

ヒロトの腕のなかをじたばたともがくけれど、うまく身動きが取れなかった。

「やだっ!!風丸君っ!!僕は大丈夫だからっ他の人傷つけちゃダメっ!!!」

「でもっ!!」

俺は円堂が許せない。ヒロトを無理矢理犯して、許せるはずがない。でもそれでも、ヒロトはやめてと繰り返した。俺等が繰り返していると、円堂が「あー!!もう!!」と壁を殴った。

「痴話喧嘩はよそでやってくれよ……見てるこっちがむなしくなるだろ」

「なっ!!!」
「風丸君っ!!!」

ヒロトは、再度掴み掛かろうとした俺の抱き締める力を強めると、そのままドアのほうへ連れていった。円堂は何も言わなかった。ドアから出る前にヒロトは円堂に向き直ると、

「円堂君、僕は風丸君が好きなんだ、だからあきらめて」

「無理って言ったら?」

「       」

ヒロトの言葉に俺と円堂は顔を引きつらせた。