風丸君が泣いていた。

出来る限り声を殺して、我慢しているようだけど小さな嗚咽が部屋中に響く。

「…ねぇ、どうしたの…?」

「…円堂に、振られた……。あいつ…好きなやついるんだってよ……ずっとサッカーにしか興味ないと思ってたのに……」

風丸君は円堂君が好きだった。その事は僕も知っていて、応援もしてた。でも、今風丸君が振られたと聞いてとても喜んでる自分がいた。

「ねぇ風丸君、それなら僕と付き合わない…?」

「…ぇ…」

驚きの表情を隠しきれずに風丸君は顔を上げた。真っ赤に腫れた目が痛々しかった。僕は風丸君の目尻に溜まった涙を指で拭って、悪魔の笑みを浮かべた。

「ずっとずっと好きだったんだ。別に風丸君は円堂君のことを好きなままでいいよ。ただ、僕は風丸君と一緒にいたいだけ…ダメ、かな…?」

風丸君の手を掴んで、覗きこむようにして風丸君を見る。

「…ヒロトがそれでいいのなら……」





ヒロトと付き合うようになって少しが経った。いや、付き合う、というより一緒にいる時間がいままでより増えた、程度だ。恋人らしいことも全くせず、ただ単に一緒にいるだけ。

でも、俺はヒロトに円堂に感じていた感情と同じようなものを抱くようになってた。ヒロトのよく見せる柔らかい笑顔。一緒に過ごすことで気が付いた、分かりにくいけど、多彩なヒロトの表情に気が付けば釘付けだった。

「付き合ってから好きになるだなんてなぁ」

なんて戯れ言。自分の思わずため息が出てしまう。

「ヒロトを、か?」

「うわぁっ!!??な、なんだ円堂かぁ……」

ぼーっと独り言を言っていたため、それが聞かれてしまったということに顔が暑くなる。円堂のことは好きだったが今はヒロトにしか興味なかったから、最近は普通に話せるようになった。

「どうかしたか?」

「いや、風丸の独り言が聞こえたから、なんとなく。今風丸ってヒロトと付き合ってるんだろ?」

やっぱり俺の独り言が聞こえていたようだ。

「あ、あぁ…そうだけど?」

「……あ…いや、な、なんでもない!気にすんな!!」

そういって円堂はそそくさと俺の下を離れた。


……なんだったんだろう……?