マギの苦悩
「はぁ……」
日が落ちて辺りが薄暗くなる頃。
俺は王宮に着いて早々に独りになっていた。
「どうしよう…」
思い出したのは、自分勝手な行動によってアラジンを怒らせてしまったこと。
あんなに優しいアラジンが自分に対してあそこまで激昂するなんて思いもしなかった。
そしてその分、精神的に受けたダメージも大きかった。
「俺、完全に足手まといだよな…。絶対に嫌われたよな…」
一人でいると、負の感情ばかりが込み上げてくる。
不安に押し潰されそうになる。
これから一体、どうすればいいのだろうか―――――
「おっ、いたいた…。
おーい!そこのちっちゃいのーっ!」
「あ゙ぁ!?」
「ちっちゃいの」とは、多分俺のことだろう。
聞き慣れない声に振り向くと、俺たちをここまで案内してくれた金髪の男―――――アリババ国王が此方に向かって笑顔で手を振りながら走ってきた。
「お前、こんな所にいたのかよ…。俺がどれだけ王宮を走り回ったと思ってんだ…!」
んなこと知るかよ。
「………何か用ですか」
俺がそう言うと、アリババ王は「待ってました!」というような顔をした。
「そうそう、お前に用があって来たんだよ。
お前、アラジンと喧嘩したんだろ?これからもアイツの旅について行くなら仲直りしといた方がいいと思うんだけどなぁ…」
そんなこと分かってる。
しかし今はそんな反論よりも言っておきたいことがあった。
「その…「ちっちゃいの」とか「お前」とか言うのやめて欲しいんだけど」
「おっ、悪かったな。
でも、初対面の相手に名乗らないお前も悪いと思うぜ?」
「それはそうだけど…」
そう言われてしまえば此方の負けだ。
俺は素直に名乗ることにした。
「えっと…ジュダル……です。よろしくお願いします…」
「おう、よろしく!!
って…………
ジュダルゥ!?」
俺の名前を聞いた瞬間、大袈裟に驚くアリババ王。
確かアラジンに初めて会った時もこんな感じだった気がする…。
「お…俺の名前がどうかしたのかよ?」
だが、アリババ王は俺の言葉など聞こえていないかのように腕を組んで考え事をするかのようにブツブツと独り言を言い始めた。
「成る程、アイツがこんな子供を引き連れて旅なんておかしいと……。
そうか…それなら此処まで来た理由も納得できるな。となると、この後は………」
「おいっ!何ブツブツ言ってんだよ!」
俺の声で我に返ったのか、アリババ王は少し驚いた顔をして、笑いながら俺に向き直った。
「わりぃわりぃ…。ちょっと考え事しててな。
そういえば、ジュダルに聞きたいことがあるんだけど…」
「……なんだよ」
「お前ら、何が原因で喧嘩したわけ?」
アラジンからは何も聞いてないんだ…。
正直話したくはなかったが、相手は一国の王でアラジンの知り合い。
逆らう理由もなければ、隠すことも無意味だろう。
「実は………」
俺は、この国に来てから起こったことを事細かに話した。
―――――――――――
――――――――
―――――
―――
―
「…つまり、アラジンがその辺の女と、お前を放置したまま楽しく会話してて」
アリババ王がなんともいえない不機嫌そうな顔をしているので、目を合わせずに頷く。
「お前はつまらなくなったから周囲を見回していて、たまたま男が店の商品を盗むところを目撃した」
何も言わずに頷く。
「しかし放っておけなくなり男を追いかけて、今回の事件に巻き込まれた…と」
もう一度頷くと、アリババ王は大きな溜め息をついた。
「なぁ、ジュダル。
今回の件は――――――」
あぁ、どうせ俺が悪いって怒られるんだろうな…。
「お前は全っっっっ然、何一つ悪くないぞ!」
「へ?」
アリババ王の予想外の発言に、思わず間抜けな声が出る。
「いや…でも、俺の勝手な行動の所為でアラジンに迷惑かけたんだし…」
「何言ってんだよ!お前のおかげで、あの男は自分の間違いに気付いて改心したんじゃねえか!」
「だから…」と、アリババ王は続けた。
「お前の行動は間違っちゃいない。むしろ正しい、勇気ある行動だろ!」
「勇気ある…」
アラジン以外の人に褒められるなんて初めてのことで、少し照れくさい。
只の子供にこんなことを言えるなんて、流石は一国の王なだけある。
「まぁ、アラジンの受け売りなんだけどな!」
「受け売りかよ!」
俺の言葉に、アリババ王は笑う。
それでも、俺の心の中の不安は払拭されなかった。
「でも、俺絶対アラジンに嫌われたし…。もしかすると、もう一緒に旅に連れて行ってもらえないかもしれない…」
しかし、アリババ王はキョトンとした顔で言った。
「いや、それはないだろ」
「え…」
何故そこまで言い切れるんだろうか…。
俺が不思議そうな顔をしていると、アリババ王は少し驚いたような顔をした。
「もしかして、アイツから何も聞いてない?」
心当たりが無いので素直に首を縦に振る。
するとアリババ王は真剣な顔になり、俺の目をジッと見つめた。
「な…なんだよ…」
暫くすると困ったような顔になり、また溜め息を吐く。
「そっか…。アイツ話してないのか…。どうするかなぁ…」
アリババ王は少し考えると、再び俺の顔を見た。
「なぁジュダル。お前、これからもずっとアラジンについて行く覚悟は出来てんのか?」
「覚悟…?」
「そうだ。言っておくが、これからお前らの旅はどんどん困難になっていくぞ。
アラジンは自分でなんとかするだろうが、お前は下手すりゃ命だって落としかねない」
「うっ…」
これからのことなんて考えたこともなかった…。
今までも大変な旅だったが、その隣にはいつもアラジンがいた。
今回のようにアラジンと離れ離れになってしまったら、その時俺はどうしたらいいのだろうか。
また一人で突っ込むか?
それとも安全な場所に身を潜めるか?
どちらにしろ、今の俺には力が無さ過ぎる。
俺はずっと助けられてばっかりで……もしアラジンがいなければ、俺はあの町で殺されていただろう。
アラジンは俺のことをマギだと言ってくれたけれど、魔法が使えなければ只の子供だ。アラジンみたいな立派なマギになる自信なんてこれっぽっちもないさ。
それでも―――――――
「それでも俺は、アラジンについて行くって決めたんだ。今はアラジンに助けてもらってばっかりだけど、いつか絶対に強くなってアラジンを助けるんだ!!
……………あっ!」
しまった。
勢いで叫んでしまい、思わず口にてをあてる。
アリババ王のほうをチラッと見ると、大きく目を見開いていた。
「あ…あの、すみませ「くっ…あはははは!!」」
とっさに謝ろうとしたのだが、その言葉は突然のアリババ王の笑い声で掻き消される。
「お前面白い奴だなぁ!
一国の王にそこまで堂々と言い切ったのはお前が初めてだぜ!」
「あっはっは!」と笑い飛ばすアリババ王だが、ただひたすら申し訳ない。
あと恥ずかしい。
「なんか…すいません…」
「ん?あぁ、謝らなくていいって!
お前の覚悟は十二分に伝わったよ」
笑いながら俺の頭をポンポンと叩くアリババ王。
それから俺の顔を覗き込みニヤッと笑った。
「いやー…。それにしても、流石はアラジンが六年間も捜し続けてた奴なだけあるなぁ…」
「は!?」
今、この人何て…。
「捜してた?アラジンが、俺を?なんで…?」
動揺する俺を見て、怪訝そうな顔をするアリババ王。
「本当に何も知らないんだな…。
でもな、俺は、お前にもこの話を知る権利があると思うんだ」
「なに……」
怖いけれど、ワクワクする。ドキドキする。
俺の心は今まで感じたことのないような高揚感に包まれていた。
「これからもアラジンと旅をするなら、知っておくべきだと思うぜ…。
九年前、俺がまだ16歳だった頃――――――
俺の前に初めてアラジンが現れた時の話を…」
そしてアリババ王は
ゆっくりと語りだした