凸凹ハロウィン
![](//img.mobilerz.net/sozai/1617_w.gif)
「ハッピーハロウィン!
お菓子くれなきゃイタズラするぜ!」
勢いよくアラジンの部屋の窓を開ける。
今日は10月31日。
相手がお菓子を準備していなければセクハ………イタズラ出来るという素晴らしい日だ。
いわゆる、ハロウィンというやつである。
煌帝国ではそういった文化が無いので、誰も相手にしてくれなかったけど……
いける!
この国なら、いける!
そんな高めのテンションで部屋に乗り込んだのだが、現実はそんなに甘くない。
「はぁ?」
放たれたのは、なんとも冷たい声。
だが、その声の主の格好は黒いローブに黒い三角帽子。
完全な魔法使いルックだ。
「チビ超可愛い!」
しかし、アラジンは嫌悪感を隠そうともせず顔をしかめる。
「やめてよ気色悪い。
ただの魔法使いの格好じゃないか」
俺としたことが、抑えきれずに声に出しちまった…!
でもアラジンが魔法使いらしい格好をしているのを見るのは初めてだったし、仕方ないだろ…。
「わ…わりぃ……。
見慣れなくて、つい…」
謝る俺に、アラジンは小さく溜め息をつく。
「マグノシュタットではずっとこんな格好だったんだよ。珍しくともなんともないじゃないか」
マジかよ。
ってことは、紅覇は俺より早くアラジンのこんな姿を…こんな姿を……!
「なんで言わなかったんだアイツ!許さねえ!!」
「何の話だい!?」
何の脈絡も無く頭を抱え絶叫する俺に、流石のアラジンも驚いたようだ。
というか、引かれてる。
俺、かなり引かれてる。
「きっ…気にすんな…。
俺が変なのはいつものことだろ?」
そう言ってアラジンと目を合わせようとするのだが、何故か合わない。
「あ…そうだね…。
君が変なのはいつものことだよね…」
…「何故か」じゃねえよ。
思いっきり目ぇ逸らされてんだよ!
あぁ、もう帰ろうかな…。なんか恥ずかしくなってきたんだけど…。
そんな事を考えながら壁に手をついてうなだれた俺の服を、不意に何者かが引っ張る。
何者か、と言っても、一人しかいないのだが…。
「何だよチビ…」
俺が振り返ると同時にアラジンが手を差し出す。
その手の上には、小さな包みが乗っていた。
「はい」
「えっ…」
「君、ハロウィンだからお菓子を貰いに来たんだろう?
まぁ、僕がお菓子を用意してないと思って邪(よこしま)な気持ちで来たのかもしれないけど」
全てを見透かしたかのような見下した目を俺に向けてくるアラジン。
ほぼ合っているので、反論出来ない…。
「お…おう…。じゃあ、貰っておくぜ…」
俺はそう言ってひょいと包みを手に取った。
しかし、アラジンが手を引っ込める気配はない。
「チビ…?」
「トリックオアトリート」
「へ?」
手を出して微動だにしないまま、アラジンが無表情で淡々と言う。
ジトッとした視線が何とも言えない恐怖を醸し出す。
「どうしたんだい?お菓子くれないとイタズラしちゃうよ?」
「え、いや、だって今…」
「……僕の格好を見てみなよ。どこからどう見たってお菓子を貰う側の格好じゃないか」
…言われてみれば。
「確かに…」
え、じゃあ俺はどうすればいいんだ…?
「早くお菓子おくれよ。じゃないと、イタズラしちゃうよ?」
俺がお菓子を持っていないと知ってか知らずか、急かすアラジン。
ただでさえ混乱していた俺の体は、考えるよりも早く動いていた。
「あ、はい。じゃあこれで」
キョトンとするアラジン。
変な汗をかく俺。
それもそのはず、俺がアラジンに差し出したのは……
「これ、さっき僕が君にあげたお菓子じゃないか」
やってしまった。
「何なの?馬鹿なの?
自分のしたことを理解してるのかい?
もしワザとだったら
君って最低だね」
「仰るとおりで…」
もうやだ泣きたい…。
俯いて鼻を啜る俺を見かねてか、アラジンが口を開いた。
「あー…結局、これは僕がお菓子を準備してなかったことになるのかな」
「……?」
「ってことは、君は僕にイタズラしてもいいってことだよね」
「チビ…?」
微かに頬を染めながら一気に言うアラジン。
そして言い終わると、俺に少しだけ体を寄せてきた。
「ねぇ、ジュダルくん。
君は僕に、何をしてくれるんだい?」
うまくいかない大きな彼氏
素直になれない小さな恋人
不器用すぎる二人の、ちょっとした進歩のお話。
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「実は君からバレンタインのお返し貰ってないんだけどね」
「あっ…」