「マギ」の苦悩
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バルバッド王宮に到着して数分後、通されたのは見覚えのある部屋だった。
「どうしたアラジン。キョロキョロして」
部屋を見回す僕にアリババくんが苦笑いしながら問い掛ける。
「いや、なんか…。懐かしいなぁ、って思って…」
そう…この部屋は、かつて僕が使っていた部屋だ。
六年前、僕が王たちの前から姿を消したあの日まで―――
「そういえばここは昔お前の部屋だったな…。
あれから誰にも使わせてないから、何も変わってないだろ?」
「……うん。ありがとう、アリババくん」
僕がお礼を言うとアリババくんはいつも通りの笑顔を見せた。
「礼なんか言わなくていいって!俺とお前の仲じゃねえか!
ここに滞在する間、この部屋は好きに使っていいからよ。ベッドもかなりデカいし、あのちっちゃいのと一緒に使えよ!」
「う…うん、そうだね…」
僕のしどろもどろした返事に、アリババくんは眉をひそめる。
「さっきからどうしたんだよ。暗い顔してお前らしくないぜ?」
「いや、その……ちょっとね…」
「なんだよ。あのちっちゃいのと喧嘩でもしたか?」
「うっ……」
流石はアリババくん…。
隠したって直ぐにバレちゃうなぁ…。
「あのなぁ…。そういう相談は遠慮せずにしろって昔っから言ってるだろ?
明らかに遠路はるばる二人で旅して来たのに、あんなによそよそしかったら誰だって気付くっての」
「そっ…そんなに不自然だったかい?」
できるだけ表情に出さないようにしていたが、どうやらそれは逆効果だったらしい。
咎めるような視線に、僕は思わずアリババくんから目を逸らす。
「ちっちゃいのも此処に着いてから直ぐに独りになりたいとか言い出すしよぉ…。
早いとこ仲直りでもして――――って、何処行くんだよアラジン!」
部屋を出ようとした僕を引き止めるアリババくん。
しかし僕は彼の顔も見ずに淡々と応える。
「……考え事。
ちょっと王宮をブラブラしてくるよ」
「おい、待てってアラジン!」
アリババくんはずっと何かを言っていたようだけど、歩きだした僕の耳にその言葉が届くことはない。
今はただ独りになりたかった。
こんな自分を、アリババくんやジュダルに見せたくなかったんだ。