籠の鳥





「この世界の人々は自由だ」



それがどうした。



「だが、お前はどうだ?」



そんなの知るかよ。



「この組織に縛られるお前はまるで」




何が言いたい。












「籠に閉じ込められた鳥のようじゃないか」






何を今更。











そんなこと




俺が一番分かってる




――――――――――――



「また来たの……」



窓から侵入する俺を見ながら、アラジンはいつものように溜め息をついた。



「毎度毎度、よく飽きないね。僕と話をするのがそんなに楽しいのかい?」



ベッドに横たわったままのアラジンが言う。

気だるそうなその表情からは十歳とは思えないほどの色気が感じられる。



「暇つぶしだ。少しくらい付き合えよ」



そう言って、俺は薄ら笑いを浮かべながらアラジンに覆い被さる。
それでも変わらないアラジンの表情。

飄々とした、まるで心の中を見透かしているような――――




(気に食わない……)




俺の一番嫌いな顔。





「ねえ、君……」



さっきとはうって変わって儚げな表情のアラジン。
その目は空(くう)を見つめ、焦点が合っていないようだ。



「この世界の人たちは、自由だと思うかい?」



似た話をいつか聞いた気がした。


沈黙する俺を余所に、アラジンは続ける。



「僕は、そうは思わない」



アラジンが空中に手を伸ばす。



「この世界の人たちは、皆何かに縛られてる。捕らわれてる。
それでも皆自由になりたくて、必死にもがいてるんだ」



焦点の合っていなかった双眸が俺の瞳をしっかりと捉えた。



「君も、その一人だろう?」



俺はただ、アラジンの目を見つめる。






いや、



目を逸らせなかった。





「君はまるで、籠に閉じ込められた鳥みたいだね」



またか。

それはもう聞き飽きた。




何十回、何百回と、


まるで見せしめのように。


もう逃げられないんだと言わんばかりに。




組織の奴らに言われ続けた言葉だ。




「君はいつも自由を気取ってる。だけど、実際は組織に縛られてるじゃないか」



そんなこと分かってる。




「自由になったつもりで外に出たって、その足は糸で籠に括り付けてある」



もういい。



「逃げたくても、逃げられないんだろう?
君って本当に――――――」



やめろ……












「可哀想な人だね」









うるさい…



「うるさい……うるさい、うるさいっ!!」



気がつけば、俺の両手はアラジンの首にあてがわれていた。



「お前なんかに……お前なんかに、俺の何がわかる!」


徐々に力を入れ、アラジンの首を絞める。


しかしアラジンの目は変わらない。呼吸こそ苦しそうなものの、冷静な表情でジッと俺を見据えている。




「本当に可哀想な人だよ。君は、いつもこうやって自分を否定する人を消してきたんだろう?」



「黙れ!!」



「その方が、自分が生きていくのに都合がいいから」



「黙れよ!!」



「否定されるのが怖いから。悪いことをして、他人からの否定を合理化してるだけじゃないか」



「黙…れ……」



「そんな人生が楽しいかい?運命を憎んだりして、虚しくないの?」



「俺…は……。俺だって…!」



好きで運命を憎んでるわけじゃないとか、こんな人生が楽しいわけないだとか。

言いたいことは山ほどあるのに、アラジンの目を見ると出かけた言葉が消えていく。

それがなんとなく悔しくて、惨めで……。

堪えきれず、俺は嗚咽をあげて目から大粒の涙を流した。



「君は、本当はどうしたいんだい?」



涙で濡れた頬にアラジンが優しく手を添える。




自分がどうしたいかなんて考えたことがなかった。

いつも誰かの言いなりで、縛られた偽りの自由を与えられて――――――



「おっ…俺っ……は……」



上手く喋れない。


それでも、アラジンは優しい笑みを浮かべながら俺の言葉を待ってくれた。



「ほん…と…は、普通に、じ…ゆうに……生きたい…。ただ、それだけなんだよ…。それ以上も、それ以下も…望んでなんかいない…」



拙い俺の言葉にも、アラジンは微笑みながら頷く。



「…大丈夫だよ。君は絶対に自由になれる。
いや、僕が自由にしてあげる。

その足に繋がれた糸だって、僕が断ち切ってみせる」



「だから――――」と、アラジンはその小さな体で、手で、腕全体で






俺の体を、優しく抱き締めた。






「もし居場所が無いなら、僕が作ってあげる。

誰かが君を否定したって、僕はずっと君の味方でいるよ。

この世界が嫌なら、僕と一緒に新しい世界を見にいこう。

独りが寂しいのなら、僕が傍にいるから。






だから生きて。



誰のためでもない










君自身のために」







いつか自分の羽で

この青い空を自由に飛び回れるように。









そして



籠の鳥は―――――






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