二人の願い





「うわぁ……。見て見てジュダルくん!星が綺麗だねぇ…!」


フワフワと浮かぶ絨毯の上で満天の星空を見上げるアラジン。
大きな川のようにも見える美しい星の集まりに歓喜の声をあげた。


「おー…本当だ。昨日まで雨だったからどうなるかと思ったけど晴れて良かったな」


胡座をかいた俺の足にすっぽりと収まるアラジンの頭を撫でながら、俺もつられて空を見る。

今日は7月7日。
俗に言う「七夕」だ。


「いきなり「付いて来い」って言われたのにはビックリしたけど、今は来て良かったって思ってるよ」


そう言うとアラジンは首を回し、俺の顔を見て満面の笑みを浮かべた。


「だって、君と一緒にこんなに綺麗な星空が見れたんだからね!」


「………っ!!」


久しぶりに見るアラジンの笑顔に、体が勝手に緊張する。この破壊力はヤバい…。


「チビ………」


「ん?どうしたんだい?」


キョトンとするアラジンの体を後ろから抱き締め、頭の上に自分の顎をのせる。

俺のいきなり過ぎる行動にアラジンの体が強張るのを感じた。


「なっ……なに!?どうしたんだいジュダルくん!」


「……別に。なんとなくやってみただけ」


可愛すぎて我慢出来なかったなんて言えるわけねえだろ。


「そ…そっかぁ………」


俺の顔が近くにあるのが落ち着かないのか、どこかソワソワした様子のアラジン。
そんな仕草の一つ一つさえ今の俺には愛しく感じた。


「織り姫と彦星ってさぁ…」


恥ずかしさを払拭するかのようにアラジンが切り出す。


「一年に一度しか会えないんでしょ?それって、なんだか今の僕たちに似てるよね」


確かに今の俺たちは好きな時に会うことは不可能だ。

お互い違う国で違う考えの王に付いて、俺たちはそんな奴らの主軸のような存在になっている。


今回だって、シンドバッドの目を盗んでなんとかアラジンを連れ出したんだ。


「あー…確かに。でも、一年に一度なんて低い頻度じゃないだけマシだろ」


そう言って笑うと、アラジンもつられてクスクスと笑う。


「それもそうだねぇ…。
一年に一度だけしか会えないなんて、寂しくて死んじゃうかもね」


なん…だと……。

アラジンがそこまで俺のことを思っていてくれただなんて……!


「アラ―――「ジュダルくんが」」


だよな。

お前がそういう奴だってことは知ってたさ…。


「で…でもさ、頻繁に会えない方がその時の嬉しさは大きいよな!!」


俺がそう言うと、アラジンは目をこちらに向け驚いた顔をした。


「君にしてはまともで良いことを言ったねぇ…」


「おいコラそれはどういう意味だチビ」


お互い目が合い思わず吹き出す。

ひとしきり笑ったあと、アラジンは星空を見ながら俺に尋ねた。


「ねえ、ジュダルくんのお願いは何?」


「え、世界征服?」


俺の答えに少し不機嫌そうにするアラジン。


「そういうのじゃなくって…。もっと現実的なことを言っておくれよ」


「冗談だって、怒んなよ。そうだな…強いていうなら現状維持かな……」


その答えに、アラジンは呆れたような溜め息をつく。


「そこら辺のそこそこ成功してる実業家みたいだね」


「ほっとけ!つーか、例えが絶妙すぎんだよ!」


そんなやり取りに、アラジンはまた笑う。
そして俺の方を振り向いてこう言った。


「考えたんだけど、それぞれのお願いをお互いに叶えるっていうのはどうかな?」


「お、それ楽しそうじゃん。じゃあ――――」


「君のお願いは現状維持で決定だよ」


「はぁ!?なんだよそれ!
じゃあ、お前の願いは何なんだよ!?」


アラジンは少し考えた後、こう告げた。


「皆が幸せになれますように」


「な…………」


意味が分かんねえ…。


「俺にどうしろと……」


あまりのスケールのでかさに唖然とする俺に、アラジンは笑いかけた。


「そんなに重く考えないでおくれよ。そうだなぁ…。じゃあ、手始めに僕を幸せにしてもらおうかな?」


「手始めったって、どうすりゃ………っ!?」


突如向き直ったアラジンが俺に抱きついてくる。
絨毯の上だということも忘れて俺は慌てふためいた。


「アアアアラジン!?」


数秒間俺に抱きついたあとアラジンは手を離し「ふぅ」と息をついた。


「うん、幸せだった!ありがとうジュダルくん!!」


「今のが、お前の幸せ?」


「うん!ジュダルくんといるときが一番幸せ!!
ね、ジュダルくんも幸せだった?」


「ま…まぁ……」


本当のことだったから正直に言うと、アラジンは満足げに頷いた。


「ジュダルくんのお願いは現状維持でしょ?だから、これからもずっと僕がジュダルくんのことを幸せにしてあげる!!」


アラジンが俺の目を真っ直ぐ見つめ笑顔を浮かべる。


「これからもずっと一緒だよ、ジュダルくん!!」






来年も、二人で星を見るために。




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