貿易の国「バルバッド」前編
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町を出て一週間と四日後。
結局(俺の)体力がもたず馬車を乗り継いで移動した俺とアラジンは、貿易の国バルバッドへと辿り着いた。
「うわー…。なんか凄い国だな」
狭い空間にひしめき合う人々。町のバザールとは比にならないくらいの活気がある。
「この国は面積こそ小さいけれど、多くの島を保有している大海洋国家なんだ。
そのおかげで交易も盛んで、ここ数年のうちに一気に豊かになった国なんだよ」
隣を歩くアラジンが説明してくれた。
アラジンは俺が知らないことを何でも知ってて、何でも教えてくれる。
魔法のことになるとちょっと怖いけれど、いつもは本当に優しいんだ。
背はそんなに高くないけど顔は格好いいし性格は良いし、恋人がいないのが不思議なくらいだった。
でも聞いたら「マギだから、そういうのは駄目なんだよ」って。
ちょっと悲しそうな顔でアラジンは答えた。
(「マギ」ってやっぱり大変なのかなぁ……)
アラジンを見てたらつくづくそう感じる。
それに加えマギであることのストレスが原因なのか、本来の姿なのか…
アラジンは――――――
異常なほどの女好きだ。
「お兄さん達、旅の人?それとも観光かしら?」
突如横から声を掛けられると同時に、目にも留まらぬ速さでそちらを振り向くアラジンの姿を確認した。
少し遅れて声のした方を見ると、清楚な感じの胸の大きな女の人がこちらを見ていた。
「あんまり格好いいから声掛けちゃった。迷惑だったかしら?」
「迷惑だなんてとんでもない。こんな綺麗なお姉さんに声を掛けていただけるなんて光栄なこと他にありませんよ」
息継ぎもせずに一気に言いあげるアラジン。
自分の中で女の人に対する返答マニュアルでも作ってるんじゃないだろうか。
そんなアラジンの言葉を聞いて、女の人の表情がパッと明るくなる。
「本当に!?だったら、少しお話しませんか?」
「ええ、いいですよ」
………………………
正直、つまらない。
誰にでも優しくするのがアラジンの良いところだとは思うけれど、それが自分以外の誰かに向けられるのが嫌で仕方ない。
(なんだよ、女の人にあんな顔見せて……)
ニコニコしながら女の人と話をしているアラジン。
そんなアラジンを睨み付け、俺は目線を逸らした。
その時―――――――
(あれ?今あの人……)
人ごみの中で一瞬目に入った男。
間違いない。
つい最近まで、自分も同じようなことをしていたのだ。
見間違える筈がない。
(あいつ、盗っ人だ…!!)
自分でもよくわからない。もしかすると、つい最近までの自分と重なって見えたのかもしれない。
ただ、俺は本能的にあの男を追い掛けなければならない気がした。
(よしっ……!)
そして俺は一人でその男を追い掛け、細い路地へと入っていった。
「――――――ジュダル?」