昔話





その日の夜、アラジンとジュダルは焚き火を囲み野営をしていた。
アラジンに寝るよう促されたジュダルは敷物の上でうずくまっている。

そんなジュダルを見ながらアラジンは一人夜空を見上げた。



(空だけは、あの頃のまま…か)



澄んだ星空を見ると、不意に虚しさが心を覆い尽くした。

変わってしまった自分に嫌気が差す。うまくいかない運命に苛々する。


それが、自分で選んだ道であるにも関わらず。



(もしも…なんて、考えたって無駄なのに……)



アラジンは星空から燃え盛る炎に目を移した。

果たして、自分の判断は正しかったのか。

今も、昔も ―――――――








「アラジン………」




突如横から聞こえた声にアラジンは思わず身構える。

見ると、寝ていた筈のジュダルが敷物を抱えて立っていた。



「ジュダル…。どうしたの?」



「寝れない………」



疲れた様子でそう言ったジュダル。
日中色々とあったうえに、旅慣れしていないせいで野宿は体に負担がかかるのだろう。



「そっか。じゃあ、横においで」



そう言ってアラジンが地面をポンポンと叩くと、ジュダルはそこに敷物を敷いて横になった。



「アラジン、何か話して」



余りにアバウトなジュダルの要求に、アラジンは苦笑いになる。



「何かって………。

あぁ、そうだ」


何かを思い出したような素振りを見せ、アラジンはジュダルを見た。


「君に、「マギ」の昔話を聞かせてあげるよ」



「なにそれ面白そう!!」




ジュダルの期待に満ちた顔を見て、アラジンは笑顔を見せる。



そして、ゆっくりと語り始めた。






「昔むかし…誰も知らない世界に、一人の小さなマギがいました。
そのマギはとっても世間知らずで、自分のことも、世界のことも何も知りませんでした」



「マギなのに何も知らなかったのかよ?変なのー」



自分のことを棚に上げ、文句を言うジュダル。そんなジュダルの言葉にアラジンは可笑しそうに笑った。



「フフフ……そうだね。
でもそのマギは世界中を旅して王様を選び、仲間をつくって、自分が何者なのかを知りました。

それと同時に、その世界を壊そうとする組織の存在も…」



アラジンの表情が曇る。



「小さなマギは、その組織が許せないと思いました。けれど、彼らのもつ深い闇から救ってあげたいとも思ったのです。

その組織には別のマギもいました。
けれども彼のルフは黒く染まり、自分たちは分かり合えない存在なのだと小さなマギに言いました」



「なんでマギなのに世界を壊そうとしたんだよ!そんなのおかしいよ!!」



不満そうな声をあげたジュダルに、アラジンは静かに答える。



「それは、彼が運命を憎んでいたからだよ……。


でも、小さなマギは黒いマギのことが大好きでした。ずっとずっと、一緒にいたいと…そう考えていました。


しかし、組織と、それに対抗する勢力との戦争が始まってしまいました。
勿論、二人のマギもお互いを傷つけ合ってしまいました。

そんな戦いの最中、黒いマギが小さなマギに一つのお願いをしました。




自分を殺して、世界を救ってほしいと頼んだのです」




「でも、黒いマギは世界を憎んでたんだろ?
だったらなんで自分の命と引き換えに世界を救おうとしたの?」



ジュダルはどうも納得出来ないのか、不思議そうな顔をしている。



「黒いマギが救いたかったのは世界じゃなくて、小さなマギのいる世界だったんだよ」



それを聞いてジュダルは驚いた顔をした。



「じゃあ、本当は二人ともお互いのことが好きだったってこと!?」



「まぁ、そうなるよね」



少し照れたようにアラジンは笑う。
それにも気付かず、ジュダルはただただ感心したような声を出した。



「へぇ…。なんか凄いなぁ」






「でも、小さなマギはそれを拒みました。自分の好きな人を手に掛けるなんて、とても出来るようなことじゃなかったからです。


それでも、黒いマギは頼み続けました。

「自分の魂を救ってほしい」

と……。





そして、小さなマギは――」




そこまで話すと、アラジンは目を伏せて口を噤んだ。


「アラジン?」



僅かに俯いたアラジンの顔は髪で隠れ、表情を伺うことは出来ない。



「続きは、また今度ね……」


「えーっ!何でだよ!?」



不満そうなジュダルに、アラジンは俯いたまま答える。



「なんでも。
ジュダルが僕より沢山魔法を覚えて一人前のマギになったら教えてあげる」



「そんなの無理に決まってんじゃん!アラジンのケチ!!」




そう言うとジュダルは拗ねたのか、アラジンとは逆の方向を向いて寝転んでしまった。


数分後、隣から聞こえてきた穏やかな寝息にアラジンは笑みを浮かべる。

だが、その顔はどこか悲しそうな表情をしていた。




(馬鹿みたいだ…。こんなこと、ジュダルに話して。
何かが変わるわけでもないのに………)




アラジンは暫く夜空を見つめた後、ジュダルの髪を優しく撫でた。





「ごめんね、「ジュダル」…」








アラジンの頬を伝う涙。






それは炎の赤に染まり




















愛すべき者の返り血のようにも見えた。






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