「マギ」と罪人





「酷い………」


町の中心部では あちらこちらで家が焼け、死体が転がり、誰かの泣き叫ぶ声が聞こえた。
とても先ほどまでバザールで賑わっていた町とは思えない。


「誰がこんなことを……」



ジュダルの呟きを聞きながら、あまりに酷い光景にアラジンも息を呑む。

どこかで見たことのあるような惨状に、自分の記憶を辿るアラジン。

しかし、考えることに集中するあまり








いつの間にかジュダルの手を離していた。






「しまっ―――――」




慌ててジュダルの方を振り向くと、彼は変わり果てた町を呆然と眺めていた。




その背後の建物の上に見える






黒いルフを纏った男




「ジュダル、危ない!!」



アラジンが声を上げると同時に男が杖を振り下ろす。



「うわっ!?」



勢い良く突き飛ばされ尻餅を付くジュダルの目の前で砂埃が舞う。
アラジンの咄嗟の判断で、ジュダルは攻撃の直撃を免れたのだ。


「アラジン!?」


徐々に砂埃が晴れてくる。
自分を庇ったアラジンがどうなったのか…。
ジュダルには悪い想像しか出来なかった。


しかし




「ジュダル、怪我はないかい?」



霞む視界から現れたのは、不思議な膜の球体に包まれたアラジン。
その体には傷一つ、服には汚れ一つついていなかった。



「お…俺は大丈夫………」


驚きながらも返事をするジュダルに、アラジンはニッコリと笑いかける。

そして、攻撃を仕掛けた男の方をキッと睨み付けた。


「またお前か…。「ソロモンの代行者」よ」



「やぁ。暫く見てないうちにまた力をつけてるみたいだね」



うっすらと笑みを浮かべるアラジンに、男は舌打ちをする。



「フン。誰のせいだと思っている。お前があの時余計なことをしなければ……」


苛立った様子の男に、アラジンは小さく溜め息をつく。


「君たちがもう出てこれないように仕向けたことだったのに……。どうしてそこまで世界を憎む。
それに、ここは君たちの世界じゃない筈だ」



「我々の計画は未来永劫暗黒をつくることだ。
おまけにここはソロモンの作った世界。十分我々の憎むべき対象となり得るのだよ!」



男は話し終えると杖を空に向け掲げた。
すると、杖の先端に黒い鳥とも見えるようなものが大量に収束する。



「ア…アラジン、何あれ…」


怯えるジュダルをアラジンは安心させるように抱き締める。



「あれは、黒く染まってしまったルフだよ」



「ルフって…あの、白い鳥みたいなの?
全然違うものみたいだ……」



ジュダルの体はカタカタと震えている。初めて見る黒ルフが、こんなにおぞましいものなら当然だろう。

ジュダルに負担をかけないように、アラジンは一刻も早くこの戦いを終わらせなければならなかった。



「ジュダルはここで待っててね」



「でも………」



アラジンが微笑みかけてもジュダルの顔は恐怖で強張ったままだ。



「大丈夫。すぐに終わるから」



再度向けられるアラジンの笑顔に、ジュダルは小さく頷く。

それを確認しアラジンはジュダルの頭を軽く撫で、浮遊魔法で男との距離を詰めた。


「ほう、少しは使える魔法が増えたようだな」



男の皮肉っぽい言葉に、アラジンも黒い笑みで答える。


「まぁ、誰かさん達のお陰で時間だけは有り余るほどできちゃったからね。
色んなことを覚えたよ。
それと同時に忘れたこともあるけれど」



「何だと思う?」と男に問い掛ける。
勿論、男がそれを知る由などない。




「それはね――――」





アラジンが男に杖を向けた瞬間








男は口から血を流しその場に倒れ込んだ。






「手加減することだよ」




「きっ…さまぁ……!」



その体には無数の氷の刃。

男は苦しそうに呻くと、鋭い眼光でアラジンを睨み付けた。
そんな男をアラジンは冷ややかな目で見下ろす。



「ソロモンがお前たちを許しても、僕はお前たちがしたことを許さない。
もう一度ソロモンの元で罪を償え。せめてルフだけは堕転から解放してあげるよ」



アラジンは杖を掲げ、周囲のルフを集める。



「くそ……くそぉ!!
必ずや、我らが計画を…!!世界に暗黒を―――――」





「ソロモンの知恵」




アラジンの額に浮かび上がった六芳星から放たれる光に男は断末魔の叫びをあげ消滅した。

男がいた場所に残ったのは、奇妙な絵の描かれた一つの細工品。


アラジンはそれを実に不愉快そうな表情で見つめ、杖に渾身の力を込めてそれを破壊した。



「さて、残りも片付けちゃおうかな……」



険しい表情を崩さず、アラジンは地上に降りてきた。
そして、小さな足音のする方へ顔を向ける。



「アラジン!!」



「ジュダル……」



息を切らして走ってくる小さな体を、アラジンは優しく抱き締めた。


「な…なんだよ!?苦しいだろ、やめろよ!」


突然のアラジンの行動に動揺するジュダル。
なんとか逃れようと手足をじたばたさせる。



「無事で良かった……」



「なんで俺の心配なんかするんだよ……。戦ってたのはお前だろ?」


不思議そうにするジュダルの顔を見て、アラジンの険しかった表情も自然と緩む。



「あぁ、そうだったね」



「やっぱお前変な奴だな」



「そりゃどうも」



ジュダルの毒舌に苦笑いを浮かべながら、アラジンは自分たちを呼びにきた住民の方を振り向いた。



「すみません、この町で一番高い建物はどこでしょうか」


いきなり話を振られ、住民は驚いた顔をする。



「え……えぇっと、此処から南東の方角に鐘楼塔がありますが………」


住民の指差す方向を見ると、立派な鐘のついた高い塔が聳え立っている。
アラジンは住民にお礼を言い、ジュダルに目線を移しこう告げた。


「この町には、まださっきの奴の仲間が残っているんだ。
僕は今からそいつらを倒しに行かなくちゃならない」



「……うん」



「でも、僕があの塔に着くまでにまた君が襲われたら大変だ。そうなったら、さっきみたいに君を庇うことは出来ない」



先ほどの体験を思い出したのか、ジュダルの表情が曇る。

そんなジュダルを落ち着かせるように、アラジンは優しい口調で話し掛けた。



「だから、僕と一緒に来てほしいんだ。
もしかすると怖い体験をしちゃうかもしれないけれど、僕といたほうが君も安全だろうし……」



「えっ、一緒に行っていいのか?」



アラジンの意外な言葉に、ジュダルの表情はパッと明るくなる。



「うん。その代わり、勝手に動いたりしないこと。

いいね?」



「わかった!」


ジュダルの返事を聞くとともにアラジンは身につけていたターバンを外した。



「さぁ、乗って。落ちちゃ駄目だよ?」



ジュダルがターバンに乗ったことを確認すると、アラジンの合図でターバンは上昇を始めた。


「ちょっと急ぐから、ちゃんと僕に掴まっててね」



「うん!」




そして二人は南東に聳える鐘楼塔へと向かった―――








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