昔のお話






「お怪我はありませんか、大王よ」


何も言わずに僕は俯く。


「…なんで…………」


いつもなら、ここからまた僕の泣き言が始まる。
でも今日は何かが違った。





「僕は、彼を助けたいんだよ………」






自分の口から無意識に出た言葉に、僕自身が驚いた。それは巨人も同じだったらしい。


「僕にしか聞こえてないなら、それは僕に助けを求めてるってことでしょう?

理由はよく分からないけれど、彼をこのままにしておいたらダメになっちゃう気がするんだ。
だから、早くここを出て
彼を助けに―――――」


「まだ、その時ではありません」


「「その時」って何なんだよ!お前はいつもいつも「その時になったら」って……。

僕は外の世界に行かなくちゃダメなんだ!!
だから、ここから出して…出してよ………」


徐々に小さくなっていく自分の声が惨めで、情けなくて、僕の目からは再び大粒の涙が溢れ出した。



(本当は、分かってる)



こんな非力な僕が外に出ることなんて出来ないことも

出たところで、彼を助けることが出来ないことも。



(それでも僕は………)



彼に会わなくちゃいけないんだ。直接会って、話をしないと………。





でも…でも……………







「……あなた様のお気持ちはよく分かりました」



今まで無言で僕の話を聞いていた巨人が口を開く。


「ですが、やはりまだ外へお連れすることは出来ません」



分かり切った返答だ。
今更『外へ出してくれるかもしれない』などという期待はしていない。


「しかし――――――」


「………?」


「大王よ、あなた様は心身共に着実に成長しておられます。
今まであなた様がご自身のこと以外のことを気にかけたことなど、一度もございませんでした。
しかし、今は見知らぬ少年を助けようと必死になっておられる。
失礼ながら、私も少し驚いてしまいました。


私はあなた様の下僕故、指図することは決して許されることではありません。
ですから、どうかこれは
助言として受け取って頂きたいのです」



「………言ってみて」



「もし、その声があなた様だけに届いたものなら、
こちらから「声の主」に声を送ることも可能だと思われます」



そんなことが………


「出来る……の?」


僕の問いかけに、巨人は大きく頷く。


「昔のあなた様では不可能なことだったでしょう。
しかし、今のあなた様ならそれは可能です」


「どうすれば………
僕は、どうすればいいの!?」




「想ってください」



「えっ…………?」


「あなた様の今抱いている気持ちを、伝えたい言葉を、心の中で強く想うのです。そうすれば、自ずと言葉は相手に伝わります。

これは、限りなく近い存在であるあなた方二人にしか出来ないことです」


「僕の…気持ち…………」



そうだ、簡単なことだ。

今までずっと、僕は想い続けてきたじゃないか。




彼を助けたいという、純粋な想いを。彼に伝えたい、僕の言葉を………!!





(絶対に、届けるんだ!!)






そう強く願った瞬間、僕の体から白い鳥のようなものが飛び立って行った。
それは上へ上へと昇って
ついに見えなくなってしまった。












「ねぇ、君。質問してもいいかな」


本が大量に積まれた部屋で、僕は上を見上げながら
近くに座っていた青い巨人に話し掛けた。


「はい、何でしょうか」


かしこまった態度で巨人は答える。



「僕の言葉は、彼に届いたと思うかい?」


「勿論です」



目だけで巨人の顔を見ると、彼は笑っていた。
僕も、いつの間にか笑っていた。


「そっか。


……ありがとう」







――――――――――――

同時刻、
とある土地にある闇の組織の一室。




「マギよ、仕事は終わらせてきたんだろうな?」


「ったりめーだろ!あんな弱っちい奴ら、一瞬で片付けてやったぜ!!」


「……ならいいんだがな。次の仕事も怠るなよ」


「んなもん、言われなくたって分かって――――っ!?」


「どうしたジュダル!?」


「い…いや、何でもねぇよ。それより、さっさと出て行ってくんね?
ここ一応俺の部屋なんだけど」


「……何かあればすぐ報告するんだぞ」


「あーはいはい。
分かってる分かってる」


適当に返事をして、相手が部屋から出て行くのを待った。戸が閉まり、俺は大きく溜め息をつく。


それにしても―――――


(今の、何だったんだ?)


暖かい何かが体の中に入ってくるような、不思議な感覚。

何かが湧き上がってくる。



「えっ……何…だ……よ、これ…………」


突如頭の中に響いた声。
そして、反射的に溢れ出した涙。



そこで、俺は気付いた。




「あぁ、そっかぁ……俺の叫び……誰かに…届いてたんだな…………」



それだけで救われた気がした。自分の気持ちを、分かってくれた人がいたんだ。

誰かは分からないけれど、俺のことを想っててくれる人が……………。



それだけで、俺はこれからも生きていける。




「………ありがとう……」

















(僕にはまだ君を救えるほどの力はない。
だけど、待ってて。
必ず君を助けに行くから。何年かかっても、君を助け出してあげるから。

だから、これだけは忘れないで………。














君は、一人じゃないんだよ)






――――――――――――

これは、昔むかし………
僕がまだ世界を知らなかった頃のお話―――――






「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -