もしも君を救えたならば
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目が覚めると、なぜか俺はベッドに寝かされていた。
(まさか、全部夢だったとか………)
それなら最悪だ。
だが、見上げた天井は見慣れないもの。
少なくともここが煌帝国でないことは確かだ。
窓の外から聞こえてくる様々な生活音に耳を澄ませながら、ある変化に気付く。
「えっ…あれ?」
いつも自分の周りに漂っていたルフたちが
「見え……ない」
ベッドの傍に置いてあった自らの杖を持ち、魔法を発動させようとする。
だが…………
(出来ない………)
いくら命令式を与えてやっても、一向に魔法が発動する気配が無い。
(まさか、本当に…………)
その時、キイッと音を立てて部屋のドアが開いた。
「やあ、気分はどうだい?」
「チビ………」
入って来たのはアラジンと
シンドバッドだった。
「お前の正式な処分を伝えに来た」
ニコニコしているアラジンとは反対に、シンドバッドの嫌そうな顔。
相当俺のことが気に入らないらしい。
「煌帝国の神官職は解任。
その代わり『シンドリアのマギであるアラジンの希望によって』お前をアラジンの兄弟並びに食客としてシンドリアに置いておくことになった。
まぁ、そのうち迷宮攻略にでも行ってもらうから覚悟しとけ」
「はっ。言われなくても分かってるよ。
シ ン ド バ ッ ド さ ま」
「…………俺からは以上だ。では、お先に失礼するよ」
引きつった笑みを浮かべながら、シンドバッドは部屋から出て行った。
渾身の力で戸を閉めて。
静まり返った部屋に残された俺達。
何を話せばいいのか……。
「ねぇ、ジュダルくん」
先に言葉を発したのはアラジンだった。
「おう、どうした?」
「ルフ……見える?」
「…いや、見えない」
「やっぱり………」
アラジンは俺にルフが見えてないことを知ってたみたいだ。
「これって、普通の人間になった……って捉えていいんだよな?」
「うん。
えっと……その、僕が気にしてるのは君がショックを受けてるんじゃないかってことで…」
さっきまでの笑顔は完全に消え、アラジンは俯いてしまった。
「今まで見えてたルフが急に見えなくなっちゃったら、きっと君は悲しむと思って……。
やっぱり、余計なことしない方がよかったかい?」
目に涙を浮かべながら俺を見るアラジンの頭を、軽く撫でてやる。
「余計なことされたなんてこれっぽっちも思ってねえよ。寧ろ感謝したいくらいだぜ?」
「ほんとに……?」
「嘘ついてどうすんだよ。ほんと、ありがとな……」
俺の言葉に、アラジンは
ブンブンと首を振る。
「僕のほうこそ、お礼を言わなきゃ」
「あの時言ってただろ?
だからもういいぜ」
ニヤリと意地悪げな笑みを浮かべてそう言ってやると、アラジンは顔を真っ赤にしてしまった。
「きっ……聞こえてたのかい!?」
「おー。そりゃもうバッチリ」
「そういうのは忘れるまで心の中にしまっておいておくれよ!あぁもう恥ずかしい……」
「いいじゃん別に。
減るもんじゃねーし」
「うぅ…そうだけど……」
これは本当に現実なんだろうか。
そう思うくらい、俺は幸せだった。何にも囚われることなく自由に会話が出来る。笑い合える。
もし夢だとしても、許せる気がした。
話が一段落したところで、鐘の音が辺りに響き渡った。
「あ、もうこんな時間か。
僕もそろそろ行かなくっちゃ。
君はもう少し休んでるといいよ。これから色々と大変だろうしね」
「あのさ、最後に一つ……聞いていいか」
部屋を出て行こうとしていたアラジンは、クルッと俺のほうに向き直る。
「うん?どうしたんだい?」
「俺の周りに、ルフ来てるか?」
よほど心配そうな声だったのか、アラジンは優しい声音で返してくれた。
「うん、綺麗なルフが沢山集まってきてるよ。魔法が使えなくなっただけで、本質は変わってないのかもしれないねぇ。
あと……黒ルフも数匹混ざってるよ」
「黒ルフが……?」
「あ、心配しなくても大丈夫だよ。君は完全に堕転から解放されたから。
この子たちは、君のことが恋しくなって会いに来ちゃったみたいだね」
ルフに感情があるなんて
聞いたことないけど
「……そっか」
なんだか凄く嬉しかった。
思えば、黒ルフにはずっと助けてもらっていた。
最後に聞こえたあの鳴き声も忘れられない。
「お前から、俺の代わりにコイツらに礼を言ってほしいんだ。今まで散々使っておいて、いきなり突き放すようなことしちまったから……」
「僕が言わなくても、もう十分に伝わってるみたいだよ?」
「え…………」
「すっごく嬉しそうに君の周りを飛んでる。
………君は、ちゃんとルフに愛された立派なマギだったんだね」
その言葉で、俺は救われた気がした。
俺は一人じゃなかった。
どんなに辛いときも、悲しいときも、非道なことをしたときだって、コイツらはずっと俺の傍にいてくれた。
ずっと、俺を助けてくれた。
「ありがとう……ありがとう……。
最後まで一緒にいてやれなくて、ごめんな………」
泣き出す俺の周りに、ルフたちが集まってくるのを感じた。
見えないけれど、確かにそこにいる。ずっと俺のことを見ていてくれる。
「『気にするな。俺たちはいつでもお前の傍にいてやる。お前も頑張れ』
だってさ。
みんなのためにも頑張らなくちゃね?」
そんな声を聞きながら、
俺は涙を拭った。
「……そうだな」
アラジンは満足げにニッコリと微笑む。
「じゃあジュダルくん、改めて………
おかえりなさい」
ここから、俺は生まれ変わる。
今まで犠牲にしてきた人の分まで精一杯生きるなんて、そんな綺麗事言えるような立場じゃないけど……
俺の傍にいてくれた皆のために生きたい。
力になりたい………。
そう、感じた。
「――――ただいま」
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