名前で呼んで






言った瞬間、時間が止まった気がした。いや、実際
止まったのかもしれない。
ジュダルは驚きのあまり
僕の腕を離し、その手は
その場で固まってしまっている。


「どうしたの?
僕の名前、呼ぶの嫌かい?」


少し悲しそうな声で問いかけると、ジュダルは
「うっ…」とうろたえた。


「ねぇ、ほら。早くしないと夜が明けちゃうよ?」


しかし、ジュダルは顔を真っ赤にしたまま答えようとはしない。
だが、暫くするとようやく口を開いた。


「何で……名前なんか呼ばなきゃなんねぇんだよ」


「んー…。だって、キミは僕の名前を呼ぼうとしないよね?せっかく仲良くなったのに、それって何だか
おかしいじゃないか」


「それはそうだけど…」と、ジュダルは言葉を濁す。


「お前だって、俺の名前を一度も呼んだこと無えじゃねぇか」


正論で返された。
が、僕はまだ引かない。


「それは、キミが僕のことを『お前』だの『チビ』だの言うからだよ?」


「じ、じゃあ……!」


ジュダルも、まだまだ引く気は無いらしい。


「お前も俺のこと名前で呼べ!そしたらお前の名前を呼んでやるよ!」


……そうきたか。

っていうか、何故僕がジュダルの名前を呼ばなくちゃならないんだろうか。
それじゃあ条件の意味が
あまりない気がする。

でもまぁ、ここは………


「ふぅ…。分かったよ……ジュダル」


そう言って彼の方を見ると、ジュダルは手で顔を被って床にしゃがみこんでいた。しかも、さっきよりも
顔が赤い。


「おい………」


顔を被ったまま、ジュダルが言う。


「その………よく聞こえなかったから、もっかい言って」


「しょうがないなぁ。
今度はちゃんと聞いててね、ジュダル」


すると、今度は手で顔を被ったまま、床で悶えはじめた。 正直、ジュダルってよく分からない。


「なぁ、もういっか―――」


「キミはすぐ調子に乗るのが欠点だよね」


ジュダルが少し調子に乗ってきたので、一喝してみた。 すると直ぐにシュンとなって、俯いてしまった。なんとも分かりやすい。


「さぁ、次はキミの番だよ」


僕が催促すると彼は下げた頭を僅かに上げ、僕の目を見た。


「どうしても言わなきゃ
ダメ…か?」


「いや、キミが僕を煌帝国に連れて行きたくないなら言わなくても良いんだよ?」


忘れかけていたが、そういう条件の話をしていたはずだ。


「なぁ、ア……アラ……ジ…………。
あ゛ーっ!やっぱ無理!
悪い、俺今日は帰るわ!」


「えぇっ!?帰っちゃうのかい!?」


いきなりの宣言に驚く隙もなく、ジュダルは素早く絨毯に乗り、そそくさと帰って行ってしまった。

帰り際に小さな声で
「名前なんて恥ずかしくて呼べねぇ……」と言っていたのは、(何となくジュダルに悪いし)聞こえなかったことにしよう。


ジュダルの居なくなった
部屋は、静寂に包まれる。

なんだか、いつもとは違うジュダルを見れた気がして楽しかった。


けれど――――――



「名前、呼んでほしかったなぁ…」


少し淋しいけれど、彼は
きっと明日も来てくれるのだろう。

もしそうなら、僕は諦めないよ。




僕の名前を、呼んでくれるまで





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