tns*切原赤也

「せんぱあああああい!!」


こっちに向かってブンブン手を振ってくる後輩。にっこにこと効果音がつきそうなくらいの最大級のスマイル。正直かわいくてしかたがない。緩む頬を必死に引き締め、小さく手を振り返した。それだけで血色のいい顔がパアアアと輝きだす。切原赤也 わたしの自慢の後輩だ。


「なつかれとるのう」
「ペットみてぇ」


隣を歩いていた仁王と丸井が、廊下の向こうで手を振る赤也を見つめながら言った。ペットというなら、たしかに赤也はイヌっぽい。尻尾を振りながら擦り寄ってくる子犬。やばいそれすごくかわいい。きゅんときた。あのワカメヘアーにイヌ耳をつけてやりたい。
赤也はこれから移動教室らしく、友達に背中を押されて階段をのぼっていった。わたしが見えなくなるまで手を振り続けていた。


「いい子…!」
「お前もアレだよな、親バカな飼い主だよな」
「否定できない」
「デレデレじゃのう」


呆れたように二人は言うけど、あんたちホントにいい後輩持ったんだからね。朝学校に来ると顔をほころばせておはよーございます!、毎日お昼になるとわたしのクラスまで階段ダッシュで駆け込んできて、放課後はテニスコートから先輩見ててくださいね!なんて叫んでくるし もうとにかく可愛い。それこそイヌみたいになついてくる赤也を、わたしもデレデレに甘やかしている。


「お前って、マジな話赤也のことどうなんだよぃ?」
「大好きだよ」
「ライクで?ラブで?」
「ライクもラブも超越したところで」
「いやわかんねーよ」
「いいよ丸井は一生わかんなくて」
「お前赤也いないとホントかわいくねーな、赤也いてもかわいくねーけど」


丸井はペッと床に向かって唾を吐いた。きたないなコイツ。仁王はというとわたしたちのやり取りなんてどうでもよさそうに欠伸をしている。4時間目がもうすぐ始まる。購買で買ってきたジャムパンをブラブラさせながら窓を見ると、まぶしいくらいの晴天だった。やだな、あつそう。5時間目体育なのに。こんなに日光大サービスしなくていいからもう少し曇れ。


「つーか、そういうのないんだったらあんま赤也に調子乗らせんなよ。可哀相だろぃ」
「は?なにが?」
「あいつけっこー本気なんだぜ」
だから、何が。わたしが丸井を問いただす前に、キーンコーンとチャイムが鳴り出した。やべぇと声を上げて走り出す。仁王だけがのんびり歩き続けていた。「ちょっと仁王なにしてんの」「暑いからフケる」フケたって暑さから逃れられるわけじゃないのに。わたしと丸井はギリギリ教室に駆け込んだ。丸井が言いたかったことは何だったんだろう。小さな疑問は日直の号令にかき消された。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -