もうすぐ卒業、僕はなんとも形容しがたい気分を持て余していた。この学び舎を離れることなど想像がつかなかった。いつまでもここで守られていく気がして、その生暖かい平穏を僕は警戒した。だからこそ、あの方についてゆこうと思ったのだ。


彼女との別れは、僕をやはりまた形容しがたい気持ちにさせた。
彼女は今日、僕らより少し早く旅立つ。


玄関の方から高い声が聞こえる。彼女と、親しかった友の姿があった。泣きながら別れを惜しむ友の背中をさすり笑いかける彼女。泣いてはいないようだった。


泣かないんだな、薄情な奴だ


ようやくこちらに歩いてきた彼女に言った。違う、こんなことが言いたいんじゃない。僕が言いたいのは、もっと、


だって泣き顔、見られたくないもん、セブルスくんには。


困った顔で彼女は笑う。いつだって彼女はきれいな笑顔だった。僕は君のその笑顔が酷く羨ましかったのだ。


来てくれると、思わなかったなあ

自分で呼び出しておいて?

怒ってるかなって思って。ちょっとこわかった


確かに怒っていたかもしれない。君なら絶対優秀な魔女になれるだろうに、あろうことか彼女はマグルの母の仕事を継ぐのだという。


裏切られた気がしたのだ。マグルになってしまえばもう会う機会も無くなってしまう。死喰い人になる僕に、会う機会などない方が良いに決まってるけれど。

少しだけ、期待していた。君も一緒に来てくれるのではないかと。どんなに僕が酷い言葉で罵っても、君はいつだって隣に居たから。
それが鬱陶しくて、煩わしくて、嬉しくて、…それも、今日で終わりなのだ。
彼女は一人で、僕のいない世界へ歩きだす。



あっそうそう!
あのね、セブルスくん。なんと、最後にプレゼントがあるのです!

…プレゼント?
君の下手くそな料理じゃなければ、貰わないこともないかもな


僕は皮肉を言った。最後っていうのは聞こえないふりをした。


そういえばおまえには、一度愛の妙薬を盛られそうになった

ちっちっセブルスくん、これは愛の妙薬なんて胡散臭いものではありません、
恋の魔法なのです!

そっちの方が余計胡散臭いじゃないか

この魔法はね、誰かを騙したり傷付けたりしません。嘘の愛をつくったりしません。その人を守ってくれます
わたしはセブルスくんを守りたいのです。守れないけど、ついていけないけど、わたしはあなたの嫌いなマグルに戻るけど、でも、ずっと、あなたがすき


一瞬だけ触れた柔らかいくちびるは温かくて、少ししょっぱかった。まるで、涙の味がした。しかし僕は確かに幸せを感じていた。触れ合った、ほんの、すこしのあいだ。

離れていく少女をぼうっと見つめる。視界から消えて、残された僕は小さくつぶやいた。


誰も傷付かないなんて、うそじゃないか





(結局僕ら傷ついたまま、)



090913

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