今日は特別な日だ。
あたし自身特別とは思ってないけど、カレンダーと戸籍謄本が今日は特別なんだ!と言い張っていた。結論から言えば、今日はあたしの誕生日だ。


なのに、屋敷に誰も居ないってどういうことだ!


決して誕生日を特別な日と思ってるわけじゃない。決して誕生日だから祝ってほしいとか、パーティー的なものを期待していたわけじゃ……あるけど!

そりゃあさ、誕生日なんて暦上のものでしかないよ。生まれたことに感謝なんかしてないよ。だって暗殺者だもん。でもさ、殺し殺されの世界に生きてるからこそ、そういうの大事にしたいじゃないですか!


…なんてね、しょうがないんだ。だってみんな仕事だもん。ボスまで出掛けるほどなんだから相当忙しいんだ。あたしだって手伝いたいのに、こうやってベッドでぐだぐだしてられるのはみんなの気遣いのおかげ。きっとスクとかルッスが頼み込んでくれたんだ。
それだけで満足すべきなんだよね。


「とはわかっていても、寂しいなあ」


まさか幹部全員いなくなるとは。
欲を言えばスクアーロの仕事も余所に回して欲しかったです、ボス。今日くらいべたべたしていたかったなあ…。まだ電話もしてないよ。スクアーロはわざわざメールで誕生日おめでとう、なんて柄じゃないし。照れ屋さんだし。

そんなことを考えつつ手元に用意されていくのはティーセットと小さな箱。見なくても作業できるのはヴァリアークオリティだと思ってほしい。
ローズヒップの甘い香りが鼻孔をくすぐる。さすが高級品。


「じゃっじゃーん!今日のために買った行列の出来るケーキ屋さんのケーキ!」


なるべく明るい演出を心がけてみたけど、しーんと静まり返ったあたし一人の部屋は何も返してはくれなかった。小さな箱から顔を出すイチゴショートは、箱に劣らず小さく見える。
ホントはホールで買ってやけ食いしたい気分だったんだけど、太るし、食べきれないし、太るし、良いことが何もないのでやめた。妙に理性的な自分が恨めしい。

それにしても、たった一人で誕生日ケーキを食べることになるなんて!
普段から照明の少ないわりに広い部屋も、なんの効果か更に暗く更に広く感じて、あたしのいたたまれなさに拍車をかけるには十分すぎるほどだった。


「あーあ…こうなったらさっさと食べちゃ「うお゛お゛おい!帰ったぞお!」


ばったーん!!!

豪快にドアを開けて入ってきたのは、なんと我らが作戦隊長スクアーロさんではありませ「何一人で物悲しい祝い方してんだあ?」……余計なお世話ですこのやろう。

「仕事、終わったの?」

「終わんなきゃ帰って来れねえだろお」

「それもそうですね」

「つうか、どっかの誰かさんが一人寂しく誕生日パーティーやってそうだからさっさと終わらせて来てやったんだあ」

「うわあ余計なお世話」

「なら部屋に戻「うそですすっごい会いたかったですだから帰らないで!」


抱き着いた(しがみついた)あたしの頭をわしわし撫でながら、スクアーロは満足そうに笑った。

安心しろお、俺が帰ってくるのはここしかねえからなあ!って一体あたしをどうしたいんだこの人は!襲うぞ!


「いいぞお別に」

「じょ、冗談です…」

「たまにはお前から誘ってくんのも悪くねえ」

「冗談だってばー!ほらっそれよりケーキ食べようよ!ひとつしかないけど…」


体位とか変なことを言い出す前に、とスクアーロの背中を押す。分け合ったら一口サイズなくらいちっちゃいけどまあ、スクアーロ甘いの苦手だし。いいよね?


「あー…わりい。まだプレゼントも何も用意してねえ…」

「いいよいいよ!急いで帰ってきてくれたんでしょ?プレゼントなんていらないよ」

「欲がねえなあ…」


そんなことないですよスクアーロさん。数分前のあたしはスクアーロに会いたくて会いたくて堪らなかったもん。


「あたしの欲求はスクアーロだからね!」

「…わけわかんねえ」


あ、照れてる。


ケーキをふたつに分ける。真ん中から分けてから、そうだ縦に切れば平等になったんだと気付いたけど、それを口にする前にケーキはスクアーロの皿に移動していた。

当然のように小さい方を取るところとか、スクアーロってホントに優しいと思う。普段はガサツなくせにね。ベルも見習えばいいんだ。


二人分の紅茶を入れ直して、小さな誕生日会が始まった。会と言ってもおめでとうの言葉もロウソクも(ロウソクを乗せる面積も)なかったけど、向かい側にスクアーロが居るだけであたしは満足だった。スクアーロが居たら誕生日でも葬式でも何でもいいのだ。

…とケーキをつつきながら言ってみると、鼻で笑われた。


「末期だなあ」

「照れてる」

「照れてねえよ、アホ」

「スクアーロには負けますけど」

「どういう意味だあ!」


向かい側で立ち上がる気配がしたから、殴られるかなとか思ってとっさに首をすくめた。痛い、感覚はない。


「…スクアーロ、今日はデレデレだ」

「…うるせえ。誕生日くらい黙って甘えとけえ」


うわあうわあ、あたし今スクアーロに頭撫でられてるよ!
見えないけどあたしの視界の上の方にあるスクアーロの顔は真っ赤に違いない。この照れ屋さんめ!

「先生!今すごくスクアーロくんの写メが撮りたいです!」

「誰が先生だあ!ちょっおま、ケータイしまえ!」


だってさ、だって今あたしすごい幸せなんだよ!
たった一人で食べようと思ってたケーキ、二分の一になった代わりにスクアーロと食べることができた。消化するのがもったいなくらい。


生まれてきて良かった。なんてベタすぎるけど、今なら言葉に出来る気がした。言わないけど ね。


「今年のスクの誕生日は、二人でいっぱいお祝いしようね!」


はいはい。スクアーロの顔が喜びと照れで満ちるのを心のフィルムに焼き付けたあたしは、きっと3月13日に特大のケーキを用意することだろう。



サイズより中身、っていうけどやっぱりサイズも大切だよね。つまりどっちも揃えればいい話!
091007

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