電話も通じない、残されたオフィスの彼の机には書き置きどころか書類の一枚すらない。一体これはどういうことのなのだろうかと自分でも驚くくらいの大声で仕事中のくせに職務を放棄したヤツの相棒であるルードにそう問いかければオフィスはシンとして静まり返った。まあ居るのはイリーナとルードと私だけなんだが。いや、そんなの今はどうだっていい。重要なのは昨日のサボりの分の書類を投げ出し、どっかに隠れているうちのエースくんの居場所だ。あの赤髪はデスクワークは苦手な癖して、逃げ足や素早さがタークス1だとか言われちゃってるからきっと調子に乗っているんだ。やっぱり昨日みたく私が直接捜索に出て一発活を入れてやるのが正しい罰だろう。あの赤髪をチラリとでも見かけたらファイガをぶっ放して丸焦げにしてやる、と社から支給されたマテリアを壊れるんじゃないかってくらいに握り締めた。待ってろよバカレノめ!と勢いよく総務部の扉を開けたら嫌な音が響いたが気にしない。たとえ扉が壊れていたとしてもこれはレノの所為でしかないんだもの。後ろからルードの殺すなよ、と声が聞こえた気がした。とりあえずはエントランスホールで情報を集めよう。


「ねえどうせ今日もレノがナンパしにきたでしょ」

「ええはい、きましたね」

「いつごろ来た?その後どっか行くって言ってた?」

「またレノさん仕事サボってるんですか。ついさっきここへ来て、外へは出てってないですよ。話し終わった後エレベーターで上がっていきました」

「そう、ありがとう」

「捕獲頑張ってくださいね」

「ええ、殺さない程度に頑張るわ」




本当は殺してやりたいところだけどね!とエントランスホールで受付嬢にお礼を言ってさっき乗ってきたエレベーターに駆け込んだ。行き先は先ほどと違う、下ではなく上のボタンを押して。きっとレノのことだから毎日のように入れ替わる受付嬢を口説いているだろうと踏んでいたが、彼女から入った情報はかなりの上物であった。社内に居るという証言は実にありがたい。ミッドガルを徘徊してるとなるとめんどくさくてしょうがないからで、まだ彼が社内に留まっているとなると行くところは制限されるから探しやすくなった。きっと彼はリフレッシュルームに居るだろうと憶測を上へ移動中の鉄の箱の中で考えていたら、目的地とは違う階層で突然エレベーターが止まった。どうやらお客さんが来るようで、ど真ん中に陣取っていた身体を隅っこに移動させて顔を上げればそこに居たのは我らが主任ツォンさんだった。





「あれ、ツォンさん、外に出てたんじゃなかったんですか?」

「少し早く戻って調査書出してきたんだ」

「あー、そうなんですか」

「お前は?」

「あのバカを捕獲しに行くんです」

「…ほどほどにな」

「何いってるんですか!あのバカの所為で一番苦しめられてるのツォンさんでしょ」





レノが書類を放棄した所為で当然最後に回ってくるのは主任であるツォンさんのところであって、一応は残りのみんなで分けて作業していたのに主任の心遣いで私たちの気付かぬところでツォンさんの処理する分が私たちに比べて圧倒的に多く配分されていたのだ。それを知ったのが昨夜のみんな帰ったはずの総務部のオフィスに電気がついているのを覗きに行ったときのことだ。遅くまで残業してまでレノの分をツォンさんは働いているというのに、きっとのん気な顔してサボってるレノがどうにも許せなくてこんなにも私は怒っているのだ。



「あ、オフィスの扉、もし壊れてたらすみません」

「どういう意味だ?」

「全部レノが悪いんです。あとはイリーナかルードに聞いてください」





総務部のオフィスの階についたエレベーターはチン、と音を立てて止まり降りようとするツォンさんにそう言ったら、なんとなく想像は付くなと軽く苦笑しながら背を向けて彼は歩き出す。そんな彼の後姿は次第に閉じられていくエレベーターの扉にさえぎられて見えなくなっていった。









「おい、バカレノ」

「ん?なんだ?お前もサボりかよ、と」

「よし、死にたくなかったら今すぐオフィス帰るぞ」



リフレッシュルームに降り立った私はすぐにあの赤髪を見つけた。そして拳銃を突きつけながらレノにオフィスへと帰ることを要求する。私が撃つ気がないことを確信してか彼はへらへらと笑いながらいつもの口癖でこちらをバカにしているように見えた。どうやらコイツはこのリフレッシュルームが何のためにあるか知らないらしい。リフレッシュルームとは残業などで疲れた身を癒す場所であり、そうツォンさんみたいな人が使うのが正しいのである。残業どころか普通の職務もこなさないやつが使っていいところじゃないんだよレノ君、と早口でこのバカに説明した後彼が持たれる壁に一発銃弾が打ち込む。癒されるはずの場所に似つかわしくない銃声が響いたことでリフレッシュルームの雰囲気が台無しになった気がした。どれもこれもコイツがサボる所為である。





「次は脳天撃ち抜くわよ」

「どうせなら俺のハートを撃ち抜いてくれよな」

「わかったわ、お望みどおり心臓に風穴開けてやる!」

「いやいや、そっちじゃなくてよ。ロマンティックな方にしてほしいぞ、と」

「ロマンティック?タークスに居る時点でそんなもの求めたって無駄よ。ロマンティックな展開を期待してんならとっとと転職しなさいレノ君」

「お前にレノ君て呼ばれるとなんか生徒と先生みたいだな」

「どっちかというと上官と部下ね。部下を標的として練習する上官」

「わ、笑えねえぞ、と」

「逃げ切ってみなさいよ、タークスのエース、レノ君?」





そのかわり私が捕まえたらいままでツォンさんと私たちが処理してきた倍の量のデスクワークに取り組んでもらうから、と叫びつつ私は銃に新しい弾を装填する。まああのロッドなんかで銃の私に対抗できるはずなくレノは捕まったって落ちなんだけどね。





悪意の一撃



(打ち抜いた壁と外れかけた扉はレノの給料から引かれたとさ)
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