また楽しみにしていたドラマが終わった。

この時期といったら番組改編ラッシュでどのチャンネルも最終回最終回、いちいち感動するのもめんどくさい。そもそも15分拡張ってなんなの、いさぎよく1時間でおわれよ。おかげで録画失敗した。のこり15分でノリコとタツオになにがあったのかわたしには知るよしもない。結婚指輪渡した瞬間にぶっつん画面真っ暗ってケンカ売ってんのか!とブチ切れてそばに置いていたクッションをビデオレコーダーに投げつけた。ら、動かなくなった。あーこれ逝っちゃったよ……ついに。そもそもビデオレコーダーってなんなの?時代はブルーレイだろ。矢沢永吉もため息ついちゃうよ。いまどきビデオとかないわー時代錯誤にもほどがあるわー。


そんなかんじでイライラしていたら玄関のチャイムが鳴った。ぴんぽー、ぴんぽー。チャイムもこわれてるじゃんかコノヤロー。


「こんばんはおじょうさん、さかた3世です。あなたのハートを盗みにきました!」
「結構です」


みょんみょんの銀髪が目に入ったとたん反射的に扉を閉めようとしたら器用にも足をはさんできやがった。なんだこいつ。かまわずぐぐぐ…とノブを引く。


「ちょちょちょ、いたい!めちゃくちゃいたい!」
「それは大変ですね〜足引いたらどうですか」
「引いた瞬間ドア閉めるでしょ」
「ヤダナ〜大丈夫ですよちょっとセコム呼んでくるだけなんで」
「通報ううう 俺不審者じゃないから!」
「黙れ糖尿3世」
「すいませんやっぱりただの坂田です だからほんと開けて。あとチャイムこわれてるぜ」


知ってるっつの。いい年こいて涙目になってるこの男がさすがにかわいそうに思えてきたので、開けてやることにした。うわわたしほんとやさしい。太平洋くらいあるんじゃないのマイハート。


「で、なに?」
「ハイここでしつもーん。今日は何日でしょうか!」
「ハイ閉めるよ〜」
「すいません14日です3月14日です!何の日かわかんだろ?」
「…ホワイトデー」
「せーっかい!ということで糖尿3世からプレゼント!」


糖尿寸前のルパンもどきが差し出してきたのはさっきのドラマで見たばかりの、毛が生えたちいさな箱だった。あれだ。中にキラキラした銀色または金色のわっかが入ってる箱。どこかで見たことある赤いいろだとおもったら、目の前にいるこいつの目のいろ。ニヤニヤしちゃってこの。どうせ今俺ちょーキマってね?ヤバくね?とか思ってるんだろう。ムカつくけど黙っておく。腹立たしいことにその通りなのである。


「あれ?無言?オーイ」
「……バーカ」
「ツンデレか」
「まじだまれ万年金欠駄目男」
「ひどくね!?これでも万年金欠駄目男なりに頑張ったんですけど」


そっと赤い箱を開けばほんとうに金色のわっかがちょこんと座っていた。さっきのドラマがフラッシュバックしてるだけじゃないかと目をこすっても、目に映る物体になんの変化もなかった。ほんもの。指輪。
…ホワイトデーってこんな大事なもの渡す日だったっけ?わたしがあげたのはごくごく普通のチョコレートだったのに。これじゃあ何倍返しどころの金額じゃない。一生かけてお返ししろってことなんだろうな、こいつのことだから。ビデオレコーダーもチャイムもお金もないってのに。あーしゃくだ!うかつにもうれしいとか思っちゃってるじぶんが。


「…しょうがないから褒めてつかわす」


お褒めにあずかり光栄です と答える糖尿3世のにやけ顔といったら!


ホワイトデーはとんでもないものを盗んでいきました

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