わわわわたしは見た!見てしまったのだ!その光景を!!
衝撃、混乱、他もろもろの感情にオーバーヒートした頭をかかえて、心臓ばっくばっくのままフラフラとわたしが向かった先は隣の隣、猿飛くんのクラスだった。猿飛くん!と駆け寄るわたしに気づいて、猿飛くんと 猿飛くんがよりかかっている席の男の子がこっちを向いた。あれ なまえちゃんじゃないの 猿飛くんが軽く手を挙げる。こんにちは、いきなりごめんね。猿飛くんたちの前まで来ると席に座っている男の子がこっちを見上げて礼儀正しく挨拶をした。猿飛くんの紹介、 男の子は真田くんというらしい。伊達くんたちや元親くんとも仲がいいんだって。そう、元親くん!わたしはさっきの光景を思い出してふらりとよろけた。


「ちょ、大丈夫?」
「ああああのね、あの、わ、わたし見ちゃって、見ちゃったの猿飛くん!」
「そうなの見ちゃったの。まずは落ち着こうか」


落ち着いてなんかいられないよ!猿飛くんに促されて深呼吸。すーはーすーはー…ちょっとだけ心臓のドキドキがおさまった。改めて猿飛くんが どうしたの?と尋ねる。


「も、元親くんが…元親くんが、女の子とおしゃべりしてた!んです!」
「……うん。それで?告白でもされてたの?」
「こっここ告白!?破廉恥な!」
「旦那は黙ってようね」


告白、いやそんなまさか。でも元親くん顔と噂は怖いけどやさしいしかっこいいしちょっとかわいいところもあるし、ありえないこともない むしろ告白されてそう!モテそう!あらたな事実に気づいてガーンとショックを受ける。というかわたし気づくの遅いんじゃ……いやいや、でもさっきのアレは違うだろう。どちらかと言えば和やかな雰囲気だったし、女の子の方も普通にニコニコしてたり時々怒ったり、そう頬っぺたを膨らませてみせたり、元親くんだって楽しそうに、楽しそうに……


「ううう、さ、猿飛くん…」
「え、なになになんなの。ホントに告白だったわけ?」
「違う…と思うけど……わ、わたし、元親くんに捨てられるかも…」


泣きそうな気持ちで訴えれば、猿飛くんはポカンと口を開けた。すこしの沈黙、開いたままの口が弧を描く。猿飛くんはブハッと吹き出した。ええええええ


「笑わないでよ!」
「だ、だってそんな…鬼の旦那がなまえちゃんを捨てるなんてありえないでしょ」
「でもすごく仲よさそうだったんだよ!ウフフアハハって感じだったの!」
「お、おなごとウフフアハハとは破廉恥な…」
「旦那は黙ってようね」


猿飛くんは笑って相手にしてくれない。その場を見てないからそんなこと言えるんだ!顔をまっ赤にして叫ぶわたしに、猿飛くんは笑いをこらえながら聞いた。


「ちなみにどんな女の子だったの?」
「えー…髪は短くて茶色で、見たことない顔だったからたぶん一年生かなあ…」
「…あー、なるなる。そういうことね」
「猿飛くんもしかして知ってるの!?」


わたしが問い詰めると、猿飛くんはとぼけたようにへらりと笑って、「わっかんないなー、鬼の旦那に直接聞いてみたら?」と言った。そんなことできるわけないでしょ!自分のか、か彼氏に 浮気してますか? なんて聞けるほどの勇気わたしにはない。そんな勇気いらない。




そのあと毛利くんのクラスに突撃して相談しようとしたら、元親くんの名前を出したとたん毛利くんの目が元親くんを見る目、もといゴミクズを見る目に変わったので結局相談はできなかった。でも去り際に一言、「あのクズが浮気などという器用な真似できるわけなかろう」というありがたいお言葉をもらった。「そのような低俗な言葉は奴にはお似合いだがな」……。

いちばんこういう話をちゃんと聞いてくれそうな猿飛くんがああだと、わたしにはもう打つ手がない。わたしと元親くんのことを知ってるのは限られた人しかいないのだ。残る一人は伊達くん。どうも面白がられるだけの気がするけど、こうなったら好奇心でもいいから話を聞いてほしい。けれど問題がひとつ 伊達くんのクラスは元親くんと同じなのである。しかもふたりはよく一緒にしゃべったりしてるから、伊達くんと話すには元親くんをどうにかしなければならない。
変に気を回しても、不器用なわたしのことだ、おかしいと思われるかもしれない。わたしは堂々と元親くんの隣にいる伊達くんを呼んで廊下に連れ出した。


「…ということなんですがどう思いますか」
「Ah?そりゃ浮気だな浮気」
「そうなの…!?」
「そうだよ。まあいっぺん平手打ちでもすりゃあ目覚めるんじゃねぇの?」


やけにニヤニヤしながらそう言って伊達くんは席に戻っていった。そういえば伊達くん午前中の体育で元親くんの投げたソフトボールが顔面に当たったって言ってたっけ。伊達くん単に元親くんを痛い目にあわせたいだけなんじゃ…と思ったけど、伊達くんの言った言葉がどうにも忘れられない。う、浮気…なのかな。あの元親くんが。


「元親くん…」
「なんだよ」
「えっひええええももも元親くん!?」


ななななんでここに!ちらりと元親くんの肩越しに教室を見ると伊達くんがすごくニヤニヤしていた。やれ!って口パクで言われてもそんないきなりできるわけないでしょうが!やっぱりソフトボールの恨みじゃないか。
わたしの視線をたどっていった元親くんが眉をひそめる。すこしだけ身体を動かしたから伊達くんが見えなくなった。


「伊達となに話してたんだよ」
「な、なにって…」

まさか あなたの浮気疑惑についてです!なんて言えるわけもなく、わたしは言葉を濁す。元親くんの眉間のシワがさらに深くなった。こ、怖いよ元親くん。


「さっき猿飛のクラスにもいただろ。なんか用でもあったのか?」
「えっいや、その、」
「…俺には言えねぇのかよ」


ハッとして見上げると、元親くんは悲しそうにわたしを見ていた。そうだ。元親くんはいつもわたしにやさしい、かっこよくてちょっとかわいい男の子。わたしはそんな元親くんがすきなんだ。疑って元親くんを不安にさせて、よくないことだ。
わたしは思いきって、ちょっと前に見た光景のことを話した。そのことについて猿飛くんたちに相談したことも話した。元親くんの目がまんまるに開く。ごめんね、あんまりにも仲がよさそうだったから そう謝れば元親くんはポリポリと頭を掻いた。


「あー…そういうことかよ…」
「なんか猿飛くんと同じ反応…」
「いや、な。そいつは後輩の鶴ってやつだ。仲良いってほどでもねぇが、まあ付き合いがある」
「そうなんだ…」
「つうかあいつは他に好いてるやつがいるからよ、俺もあいつもそういう仲になることはねぇから、安心しろ」


そうだったのか。わたしてっきり……鶴ちゃんという子にも失礼なことを考えてしまった。気に病んでいたモヤモヤが消えたおかげで胸がスッキリした。それにしても、と頭一個と半分背の高い元親くんの声が降ってくる。見上げた先にはさっきの憂いはどこへやら、照れたように、けれど太陽みたいに笑う元親くん。


「お前に嫉妬されるってのは、なかなか悪いモンじゃねぇな」


手をつないで教室に入ってきたわたしたちを見て、伊達くんがものすごく残念そうな顔をした。



リボンでくるんでさようなら

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title by さかな

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