疲労とストレスで重い身体を引きずり、塵一つ感じさせない真っ赤なカーペットの上を歩く。大したことない任務だったにも係わらずこんなに疲れているのはあのクソボスのせいに他ならない。
自分の頭部で粉砕されたグラス。任務に成功しようと失敗しようとこれだ。我らがザンザスいわく「つまらねえ、どうせなら死んでくるくらいしろカスが」。
う゛お゛おおい、俺これでも一応剣帝だぜえ、すげえ強いって言われてんだぜえ。労えなんて言わねえが、俺の人権返せ。

なんて言えるわけねえから大人しく退散。(ああ俺って情けねえ!剣帝なのに!)こういうやるせないときは部屋に戻って愛しい彼女に癒してもらうに限る。あいつ鈍感だし気い利かねえから何を言ってくれるわけでもねえが、一緒に居るだけで十分。自分の部屋で自分の女が待ってるってだけで心は弾む。うちのボスも早くそういう相手を見つければいい。少しは部下をいたわれるようになるだろう。その前にあの暴力と自由さに付き合える女がいるかどうか謎だが。


帰ったぞお、若干浮いた声を抑えつつドアを開ける。暗い部屋。反応、なし。…なんだあ?通り過ぎた部屋からは気配がなかった。だとするとこの時間に居るのは俺の部屋しか考えられない。まして昨日電話で帰る時刻を教えておいた上に屋敷に着く前にメールもしたというのに。あれ、すげえ寂しい奴じゃねえか俺。

考えたくねえが他の男の部屋に居るなんてことは…マーモンならまだいい、ルッスーリアもギリギリ許容範囲内だ。しかしベルならどうだ。適当なこと言って連れ込んで無理矢理…みたいな流れになりかねねえ。つうかあいつはベルに対して警戒心なさすぎなんだよ!あの目を見てみろ、いや見えねえが確実に狼の目をしている。レヴィは論外。
まさかザンザスが…!?あのクソボス人にグラス投げといて自分は人の女で遊ぶつもりか!冗談じゃねえ!いや落ち着け俺、さっき奴の部屋からは人の気配はしなかった。それはねえ。と信じたい。


悶々と思考を巡らす。スイッチを押すと蛍光灯の眩しい光が部屋を照らした。が、俺の疲れきった心はどんよりと暗いままだ。ああ、ベッドが寂しい…、…?


「…う゛おっ!」


予想に反してベッドには生暖かい温もりがあった。先客がいた。
ちゃっかり俺のベッドを占拠しているそいつは、紛れも無く先程まで俺の思考を埋めていた女だった。シーツに包まっていたせいで気づかなかったのだ。俺の待ち人はベルの部屋でもザンザスの部屋でもなく俺の部屋にいた。
…つまり俺は、すぐそこにいる奴のことを悶々と考えていたのか。

「だせえ…」


安堵と羞恥の入り混じった溜息をつく。くたびれ損だ。こいつ起きてなくて本当に良かった。阿呆すぎて死ねる。
改めてベッドに視線を落とすと、なまえは安らかな寝息をたてている。いつからこうしていたのか、電気がついてなかったことから考えると、恐らく明るいうちから俺の帰りを待っていたのだろう。そうと分かると安上がりな俺の口元は緩むばかりだ。もう一度言う、こいつ寝てて本当に良かった。今日の俺はダサ過ぎる。


それにしても、俺は帰ってきたのだからそろそろ起きてもらわなくては。小さな肩に触れると微かに跳ねた。ん…?よく見るとこいつ、笑ってねえか…?
嫌な予感は的中し次の瞬間可愛い寝顔は呆気なく崩壊。


「ブフッ…も、もう無理…!」

「おおお前起きてたのかあ!?」

「起きてたよ!最初から最後までバッチリ起きてましたー!あははは!何あの百面相!もうあたし笑い堪えるの必死で…!」


あーやばい腹筋壊れる!と叫びながら腹抱えてベッドを転げ回る俺の恋人。ついに転げ落ちても息を切らしながらまだ笑う。俺はというと、棒のように突っ立ったまま。


「ちょ、スクアーロ大丈夫?生きてる?」


ぺちぺち頬を叩く腕をガッチリ掴むと、笑いすぎて涙目になった彼女の口元が引き攣った。まさに今日の俺は百面相だ。今の俺はさぞかし鬼のような顔をしていることだろう。
こいつに気遣いとか癒しとか期待した数十分前の俺を殴ってやりたい。鈍感な彼女も流石に危機感を感じたのか後ずさる。が、もう遅い。人生最大の羞恥を怒りに変換した俺は、とりあえず今夜はこいつの記憶が吹っ飛ぶくらい楽しんでやろうと心に決めた。




まくら



(寝せねえどころじゃねえ)(もうたちの悪い悪戯なんざ出来ねえようにしてやるからなあ!)
(ぎゃああああああ!)




090822

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