目が覚めたら朝になっていた。こないだ新しくしたカーテンから新しい日が差し込んでいて、まぶしくて何度も瞬きをする。
ごしごし目を擦って隣を見ると、スクアーロの銀髪もきらきら光っている。まぶしくて瞬きすると、その隣に見慣れない金色がひかった。


「…ベル?」


名前を呼んでもぴくりともしないのは、ベルでないからなのか、ただ寝てるだけなのか。しかし後者であることは確かだ。わたし(とスクアーロ)のベッドに潜り込んですうすう寝息を立てているこの不届き者は、どう見たってベルフェゴールである。
え、なんでいるのこの子。いつの間に来たの。


「スク、起きてスク」


とりあえずのんびり寝てるスクアーロをゆさゆさ揺らす。しつこく揺らし続けると、あ゛ー…だかう゛ーだかうめき声をあげ、うっすらと目を開けた。


「………」
「目を開けたまま寝るな」
「…なんだぁ」
「そこ、隣」


眉をひそめて右隣りに目をやったスクアーロは、今度こそカッと目を見開いた。ものすごい勢いで起き上がるとずさささと反対側(つまりわたしのほう)に寄ってくる。


「スク、きつい」
「………こいつ、ベル…だよなぁ?」
「うん、多分」
「何でここに居るんだぁ!!」


テンパったスクアーロが大声を出してもお休み中の王子さまは起きやしない。ずうずうしいやつである。よく見るとベッドの手前の床でティアラが淋しそうにきらきらしている。これは珍しいことだ。ベルはいつもティアラを大切に扱っている。(よくキレて壊すけど)


「寝るとき居なかったよね?」
「居るわけねぇだろ」
「じゃあわたしたち寝たあとで入ってきたの?」
「俺に聞くなぁ…」


朝からショックを受けたせいか、スクアーロはぐったりしている。隣に男が寝てたらそりゃあ気持ち悪いだろう。たとえまだ男の子のベルでも。
もう一度ベルを観察してみると、きらきら光る金髪のところどころに赤黒い固まりがついている。血だ。昨日は任務がなかったはずなのに、またお付きのメイドでも殺したんだろうか。
スクアーロも血の跡に気づいたようで、こいつ今度は何したんだぁ…とぼやいている。


「とりあえず起きようよ。もうすぐ7時だし」
「こいつはどうするんだぁ?」
「まだ寝かしておこう」


スクアーロは渋々ベッドから抜け出す。わたしもあたたかい温もりの誘惑をなんとか振り切って、窓を開けた。朝の清々しい空気が部屋を駆けていっても、ベルに起きる気配はない。死んでいるようにも見えたけど、胸はたしかに上下していた。なんとなくホッとする。
そういえば昔、よく寝かしつけてあげてたなあ。まだこの子がヴァリアーに入ったばかりのころ。「おまえ王子に絵本よめよ」なんてかわいいことをいうものだから、毎晩いろんなお話をしてあげた。読んであげる度に「読むのが下手」やら「つまんねー」やら、けなされたり馬鹿にされていたものだ。



「…なまえ、これ見ろぉ」


さっさと着替えたスクアーロが、ドアの前でわたしに手招きしている。首を傾げて近寄ると、ドアのすぐ前で猫が死んでいた。痩せっぽちの黒い猫。ベルがどこからか拾ってきてよく可愛がっていた猫だった。
「死んじゃったんだ…」
「刺し傷がある。アイツがやったんだろうなぁ」
「可愛がっていたのに?」
「本人は遊んでるつもりだったのかもなぁ」


それはつまり、間違って殺してしまったということ?
わたしは振り返って、ぽつんと置かれたティアラと、シーツに包まるベルを見つめた。猫を殺してしまって、どうしたらいいのかわからなかったのか。冷たくなっていく体はどうにもならない。どうにもならなくて、わたしたちの部屋まで来たんだろうか。


「…埋めといてあげよっか」
「う゛お゛ぉい、お前、こいつに甘くねぇかぁ?」
「まだ子供じゃん」
「すぐ大人になるぜぇ」
「わたしたちが甘やかしてあげなかったら、誰が甘やかすのよ」


スクアーロが大きくため息をついた。わたしが幼いベルに絵本を読んであげに行くときも、スクアーロは呆れていたっけ。けれどスクアーロもなんだかんだ言ってベルに甘い。現に今だって、ベルを起こさないように声を落として話している。


「…こいつ、将来ぜってぇ駄目な大人になるぜぇ」
「そのときはボスに叱ってもらおう」


でも、ボスもきっと甘やかすんだろうなぁとわたしは思う。どんなに成長してもわたしたちにとってベルはほんの子供なのだ。朝陽を浴びてきらきら光る金髪を、太陽はやさしく見守っている。




クリームソーダんでいる朝

「それにしてもとんでもない朝になっちゃったね」
「寝足りねぇ…」
「ベルと寝たら?」
「…………」



100115 title by コニファー

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -