銀さんとふたりで歩く。
冬の、この聖夜のかぶき町は普段より恋人たちで賑わっている。
聖なる夜、というだけあって、町はいつもより穏やかな空気に包まれていた。

はぐれないように、とさりげなく繋がれた手から銀さんのぬくもりが伝わってくる。
やさしい体温。嬉しくて頬が緩む。しあわせ、だ。



「さむいね」

「もう冬だかんなー」



本当はあったかいんだけど。
私の小さな嘘を知って知らずか、銀さんは寒そうに肩をゆらした。
私はというと、そうでもない。
繋いだ右手は発熱したように熱いし(手汗がびっしょりだ)、半歩後ろで私に手を引かれる銀さんを意識してしまうともう駄目。
心臓がばくばくいって頭がくらくらする。
頬を刺す夜の空気は冷たいけれど、私の左胸付近はオーバーヒート寸前。
穏やかに流れる人混みの中で、私の心音ばかりが早鐘を打っているようだった。



「あっ銀さん、あそこ!人集まってる!」



緊張してるのを悟られないように、精一杯元気な声を出す。
人混みを見て渋る銀さんの手をぐいぐい引っ張って近寄ってみた。
見渡すとカップルばかりで、・・・照れる。
また心音が五月蠅くなってきた。



「おー、すげーツリーだな」

「え?」



ハッとして銀さんの視線をたどる。
そこには大きなモミの木がライトアップされていた。
この日のために綺麗に着飾ったそれは、まさに神聖なもののように感じられる。



「きれい・・・」「・・・だな」



こたつから出ようとしない銀さんを無理矢理連れてきてよかった。
じっとツリーを見つめている隣の彼を見て思う。
優しい瞳。収まったはずの心臓がどくんどくんと脈打ちはじまる。



「願い事、いかがですか?」



突然の声。慌てて現実に戻ると、目の前にはサンタ服のお姉さん。
ニコニコしながら札のようなものを差し出している。
赤いのと、白いのの二枚。
首を傾げつつ私が赤を受け取ると、お姉さんは「彼氏さんもどうぞ」と白い札を銀さんに手渡した。



「只今クリスマスイベントを行っておりますので、是非カップルでご参加ください」



お姉さんの説明によると、それぞれ札に無記名で願い事を書き、ツリーに吊したお互いの札を見つけ出せば2人の願いが叶う・・・ということらしい。
なんというか、これは・・・



「七夕と正月が混ざってんな・・・」

「うん・・・」

「・・・やるか?」

「やる!」



意気込んでペンを取り出す私に苦笑して、銀さんもペンを受け取った。迷いなくペンを走らせる。
数秒後ちらりと隣をのぞき見れば、銀さんはちょうどペン先をキャップに収めていた。
あれ、早い。
絶対私の方が早く書き終わったと思ったのに。



「ね、何て書いたの?」

「ばーか。教えたら意味ねーだろ」

「あ、そっか」

「よーし、じゃあさっさと吊そうぜ。さっみい・・・」



俺右から行くかんな、と言うないなや、銀さんはすたすた行ってしまった。
人混みに紛れきれてない天然パーマに思わず吹きだしてしまう。
よし。少し体温の下がった両手をこすり合わせ、私はツリーの左側へ進んだ。






「・・・この辺かなー・・・」



あんまり奥や低い位置だったりすると見つけられなさそうだし、と手短な枝を選ぶ。
慣れない作業に苦闘しながらも赤い札をくくりつけた。
改めて木全体を見回すと、たくさんの同じような札が吊してある。
赤や白、書いてあることもそれぞれだ。
「サンタさんが欲しい」と小さい子の願いから(なんて大胆な!)、「金が欲しい」「家を建てたい」「ハツ、帰ってきてくれ」と欲にまみれた大人の願い(長谷川さん・・・切実だね)まで、二色の札でも色とりどり。
この中から銀さんのを・・・想像すると目が回りそう。
なかなかハードなクリスマスイベントだ。
そろそろ銀さんも吊し終えた頃だろう、私はツリーの右側へ足を進める。
銀さんの身長から考えると、少し高めにあるに違いない。
視線を斜め上に固定しながら歩く。
・・・銀さんは、私の見つけたかな。
見つけなければ成就しないとはいえ、見つけられるのは恥ずかしい。今更だけど。
そんなことを考えながら――――


どん!


「わっすいませ・・・!」

「や、こっちこ・・・」



「「・・・あ」」



前を見ていなかったため人にぶつかってしまった。
・・・と思ったら、目の前に居るのは銀さんだった。
いつの間にか一周していたらしい。
白々しく謝ったのがなんだかおかしくって、お互い思わず笑ってしまう。
銀さんはまだ見つけていないようだ。
よし、もう一周――――と見上げた先には。
さっきの枝にくくりつけられた赤い札、と、その隣の枝に白い札。


間延びした字はどうも見慣れすぎていて、誰が書いたかなんて一発で分かってしまう。
きっと私の丸っこい字だってお見通しなんだろう。
そもそもふたりで同じことを書いてるんだから分からないわけない。



私たちは笑いながら、自然と触れ合った指先に力を込めた。





繋いだその手から伝わるぬくもりが、ずっと離れないよう



(高鳴る心臓は、いつまでも)



091101(酸素/こま)
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