「つかれた」


後ろを歩いているなまえが言った。足音が途切れる。振り返ってみれば案の定、道の真ん中にぺたんと腰を下ろしたなまえがいた。前髪が顔を隠しているせいで表情こそ見えないが、おそらく不機嫌そうな顔をしているに違いない。


「置いてくぞぉ」
「…もう歩けない」


なまえはその場で膝を抱えた。頭を埋めて小さい体をまた一回り小さくさせる。数歩進んでもぴくりともしないその影にため息をつくしかない。ゆるやかな旋を描くつむじを見下ろした。

夕暮れの空気は生温い。太陽は沈みかけ、反対側の空は既に夜のとばりが降りかけていた。日が長くなったとはいえ落ちるのは早い。暗くなる前に帰らなければ。夜のイタリアは危険で満ちている。急かしてもなまえはかぶりを振るばかり。まったく こいつは…


まったく、だからあまりはしゃぎ過ぎるなと言ったんだ。こいつには後先考えず突っ走るところがある。今日だって、珍しく俺が休みだからと朝から騒ぎまくっていた。デートだなんだと俺を連れ回したあげく、最後にはこれだ。いつになったら落ち着きってものを学ぶんだか。
かといって置いて行けるほど情のない男にもなりきれず、仕方なしに近寄って膝を折る。なまえは一瞬だけこちらを見上げたかと思うと、両手を伸ばして口を開いた。


「おんぶ」

「………」
「………」
「………」
「…………………」
「あ゛ーあ゛ーわかったぜぇ!!」


負けた。なまえは渋々背を向ける俺の様子をじいっと見つめている。後ろ手を伸ばせば、ぽすんと慣れた重みが収まった。軽い。1日体力を使いまくって空っぽになったのかもしれない。なまえを抱え直して立ち上がると、わずかに残る太陽の方へ歩きだした。なまえが こてん と俺の肩に頭をもたせかけるのを感じる。


「…暗くなっちまったなぁ」
「うん」
「眠ぃのかぁ?」
「……ううん」
「寝てもいいぞぉ、疲れたんだろうが」
「眠くないもん」


寝たらスクアーロが早くいなくなっちゃうでしょ とつぶやく。そうだなぁ。今日が終わって明日が来たら、俺はヴァリアーに戻る。そうしたらしばらくなまえにはかまってやれない。どうしようもないことだとなまえもわかっている だからこそどうにかしたいのだ。子供じみた我が儘が、どれほど愛らしいことか。謝ろうかと思ってやめた。なまえはごめんだとか悪いだとか そんな言葉を欲してはいないだろうから。好きだの愛してるだのは言わせたがるくせに。面倒くせぇガキだぜぇ


「だったら良い方法教えてやる」


お前が泊まっていけばいいんだよ。




心臓ごとさらっていって

100529@酸素
カイさんリク、年下彼女に振り回されるスクアーロでした。遅くなってすみません!リクエストありがとうございました。

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