どうしよう。ホントどうしよういやどうしようもないけどどうしようっていうかホントにあたしどうしたらいいの!?助けてスクアーロ!


「堂々としてりゃいいじゃねぇかぁ」


はいごもっともー…ってそう言われたって緊張するでしょ!だってここイタリア、のなんか鬱蒼とした森、の中にそびえ立つ大きなお城みたいなお屋敷。マフィアってみんなこういう暗いところに住んでるのか。お屋敷に入るとじめじめとした湿気は感じなくなったけど代わりにものすごく視線を感じる。廊下のあちこちからビームみたいに突き刺さる、未確認生命体を見るような目。スクアーロは気づいてないみたい。この鈍感!


「ねぇスクアーロ、このお屋敷ってどれくらい人住んでるの?」
「あー…俺達幹部が6人、あとは住み込みのメイドやら使用人がいくらかいるぜぇ」


め、メイド。スクアーロはしれっと言ってのけたけど、あたしの中でメイドといったらあれだ、メイド喫茶。モエモエじゃんけん。最悪の想像があたまを過ぎる。いや、まさかね…スクアーロがメイド萌えはないよね……
少し話がそれた。つまりこの突き刺さる視線はメイドさんまたは使用人さんのものなのか。何あのアジア系外国人、スクアーロ様の隣を歩きやがってこのしょうゆ顔が!みたいな感じなのか。モエモエも何もない。



ヴァリアーのお屋敷に行ってみたい、と駄々をこねたのはあたしだ。スクアーロは駄目だとは言わなかったものの最後まで渋っていた。でも晴れてスクアーロのか、か、彼女になった身として、挨拶に行きたいな くらいのことは思って当然だと思う。せっかくイタリアまで来たんだし。だから粘って粘って、ようやく頷いてもらえたときは嬉しかった。



「あら〜なまえちゃん!いらっしゃい!」
「ルッスねえさん!こんにちは!」


廊下の突き当たりで出会ったのはルッスねえさんだった。いろいろ世話を焼いてくれるあたしのすてきなおねえさん。生物学的には男だけど、恋愛相談のプロフェッショナル。メールばかりで会うのは久しぶりだ。


「よかった!会えて。今日はお仕事ないんですね!」
「そりゃあそうよ。なんたってなまえちゃんが初めてウチに来る記念すべき日なんだもの」
「る、ルッスねえさん……大好き!!」


感動して思わず抱きつくと、ねえさんも「あら、私もよん」と抱き返してくれた。


「………う゛おぉい…てめぇら、いつの間に仲良くなってんだぁ!?つうか離れろぉ!」


べりっと音をたててルッスねえさんから引っぺがされる。見上げると眉を吊り上げたスクアーロがいた。つかまれている襟足が地味に痛い。


「あれ、言ってなかったっけ?あたしとねえさんはメル友なんだよ」
「聞いてねぇぞぉ!」
「あらあら、てっきりなまえちゃんから聞いてるとばかり」
「ルッスーリア…てめぇ確信犯だろぉ……」


そんなことないわよーん、とおおげさに肩をすくめるねえさん。ほんとに確信犯だったのかな…あたしは素で忘れてたんだけど。
スクアーロは気に食わなそうな顔のままパッとあたしの襟足を離した。あとでお説教かなあ、これは。ねえさんのアドレス消されないといいな。


ねえさんと3人でしばらく歩いて、ようやく目的地にたどり着いた。ほんとうに広いお屋敷だ。端から端まで歩いたら日が暮れそう。そう言ったら「てめぇの足なら1日かかるかもなぁ」と鼻で笑われた。短足でわるかったな!!
やたら大きな扉を開けると、あたしのアパートの部屋がまるまる3つは入りそうな広い部屋が現れた。高級そうなソファーやテーブル、ふかふかのじゅうたん。こ、こんなところでスクアーロは生活してるのか……!


「ここって?」
「談話室よん。まあここに居ればそのうちみんな集まると思うわ」
「え、みんな来るの?」
「とりあえず今日居るのは…俺とルッスーリアにザンザスとレヴィだなぁ」
「ベルちゃんも来るはずよ。スクアーロをいじれる最高の機会だもの」


げっ…ベルも来るのか。高校生のあの日以来、あいつと顔を合わせるとろくなことがない。スクアーロについてあることないこと吹き込んできたり、わざとスクアーロとのデートを邪魔してきたり。完全にあたしたちをからかって楽しんでる。
レヴィさんはよく知らない。ザンザスさんに関わらなければあたしにも興味はないらしい。スクアーロの話を聞く限り、とくべつ会ってみたいとも思わない。…問題はそう、ザンザスさんだ。ヴァリアーで1番えらいひと。短気ですぐスクアーロをなぐる。スクアーロにとってすごく大切なひと。

実は今日のあたしの使命は、そのザンザスさんにあるのだ。

「どうしたのなまえちゃん。こわい顔して」
「えっいや、なんでもないよ!」


あわててごまかす。どうやら顔に出てたみたいだ。スクアーロは不可解そうに首を傾げていた。


「おーっす。なあなあアイツもう来た?」
「げ」


場の雰囲気をまったく読まずに扉を開けたのは、1番めんどくさいやつだった。黒いコートをけだるげに放ったベルの口元が、あたしを見たとたんニンマリと曲がる。


「ベルちゃんお帰りなさい。早かったわねぇ」
「ったり前じゃん、あんなつまんねー任務。それに今日はオモシロイもん見れるし?」
「みせ物じゃないんだけど…」


ベルはニヤニヤしながら(といっても目は見えないけど)あたしとスクアーロを交互に見つめる。どういたぶってやるか考えてるんだろう。とんだ迷惑である。


「おまえ、今日泊まってくの?」
「んーん、日帰りの予定だけど」
「うっわ、色気ねー…スクアーロどんだけヘタレなんだよ」
「余計なお世話だぁ!!」


失礼なやつ。いいもん、ちゃんとあとでお部屋訪問するし。ベッドの下にエッチな本がないかチェックしてやるし。
ぎゃあぎゃあとベルに食ってかかるスクアーロの頭にピンク色の物体が激突したのはそのときだった。
ハッとして入り口を見ると案の定、あたしが待っていた人間が仁王立ちしている。


ざ、ザンザスさん……!


「うるせぇカス鮫」
「う゛おぉい!俺のせいかぁ!!!」
「騒いでたのスクアーロだけじゃん」


べちゃ、とじゅうたんに落下したピンク色の物体は生肉だった。どうして生肉を持って部屋に入ってくるんだこの人。もしかしてそのまま食べたり…しません…よね……!
無意識のうちにガン見していたらしく、あたしの視線に気づいたザンザスさんと目が合った。真っ赤なひとみ。顔に無数の傷のあと。ろくに知らないあたしにもすごい人生を送ってきたことがよくわかる。


「…てめぇは」
「スクアーロのカノジョだってさ、ボス」
「カス鮫の…?」
「あっあの、はじめまして…じゃないんですけど…お邪魔してます…」


一応会ったことはあるけど、たぶんザンザスさんは覚えてないだろう。こっちとしてはザンザスさんみたいなインパクトあるひと、忘れようとも忘れられない。
ザンザスさんは品定めするような目であたしを眺めたあと、ふいと顔を逸らした。興味を失ったらしい。スクアーロを鼻で笑って部屋を出ようとする。とっさに大きな背中に向かって声を上げた。


「ザンザスさん!」


ノブに手をかけた状態のまま、ザンザスさんがちらりとあたしを見る。
よし、今しかない!あたしはすばやく深呼吸してから勢いよく頭を下げた。


「スクアーロのこと、よろしくお願いします!!!」











「…なまえ……」
「あらあらあら」
「ちょー命しらずー」


外野の声は聞こえないフリをして、あたしは頭を下げたままザンザスさんの反応を待つ。
しばらくの沈黙、小さなため息が聞こえた気がした。


「………てめぇがよろしくやってろ、家出娘」


え、とあたしが口を開く前に、目の前の扉は閉まっていた。…家出娘って、もしかしてあたしのこと?だからあれは家出じゃないんだって……



「………覚えててくれたんだ」
「珍しいこともあるわねぇ」
「気まぐれだろどーせ」


ベルの言う通りな気はするけど、うれしいものはうれしい。よろしくやってろ、ってことは彼女認定されたみたいじゃないか。口元を緩ませているとふと頭に何かが乗せられる。わしゃわしゃ掻き回す大きな手は、大好きなスクアーロのものだ。顔を見るのはすこし照れ臭いからがまんするけど、スクアーロもきっと照れてるんだろうなあ。やっぱり今日泊まって行こうかなあ。なんちゃって、お泊りセットも持ってきてたりするんだよね、じつは。



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