背筋がぞくぞくしてしかたない、そう伝えたら我が恋人は骨ばった大きな手のひらを私の額へとくっつけて、その後表情を歪めた。驚いたように見開かれた瞳をした彼は、熱あるじゃねーかといつもは憎まれ口しか叩かないその口が、心配した声色だったのが少し不気味に思える。それにしてもおかしいな、最近風邪を引くような行いはしてないはずだ。長時間風呂に入った後で下着姿で熱が冷めるまでうろうろするのも止めたし、薄着で寝ることも止めた。どちらともスクアーロに怒られて止めたことなんだけどね。何で熱なんかあるのだろうと考えていたらハックションとくしゃみが出た。
「とりあえずあったかくして寝とけ」
「言われなくてもそうしますー」
「…ガキがぁ」
「スクアーロに言われたくないもん」
ピン、と軽くデコピンをされてその反動であたしは仰け反り、そのまま体温の残るベッドへまた倒れこんだ。じんわり伝わるデコピンの衝撃が地味に痛いんだけど。俺は任務に行ってくると言って私の部屋を出て行くスクアーロは実に酷いと思う。恋人が風邪をひいて熱を出しているというのに、看病も何にもなしでお仕事優先ですか。ついでに私の体を心配する言葉は一つも出てこないし。深くため息をついて目を閉じたら、いつの間にか眠りに落ちていた。夢の中に出てきたスクアーロは気持ち悪いくらい優しくて、でも私を気遣ってくれていて嬉しかった。現実もそうだったらいいにのな、夢の中でそう考える私って現実に満足してない証拠だよね。起きたとき、自分がどれくらい眠っていたなんて全くもってわからない。わかってることはスクアーロがまだ帰ってきていないということだけ。夢の通りにいくわけ無いよね、と諦めを決め込んだ私はバスルームへ行こうと体を起こした。起こした体はだるくてしかたなかったが、汗で張り付いた寝巻きがとてつもなく心地悪いので身体が重いのを踏ん張って引き摺るように扉を開く。服を脱ぎ、汗を洗い流したまではよかったが、その後後悔することになる。温水によって温められた身体は先ほどよりも重く感じさせられて、思うように立っていられなくなった。いやだ、絶対に倒れたくない。全裸で倒れるなんて発見されたとき恥ずかしすぎるって、なんて頭の端っこで考えながら、言う事をきかない体は考えとは反して床へと平伏した。
「う…ん?」
「起きたか?」
「スクアー…ロ?」
「全裸で倒れてるとか、お前ありえねーだろ」
スクアーロのその言葉に私は「しまった」と大声を上げて飛び上がった。やっぱり全裸で倒れたんだ、と後悔に襲われる中今の自分の状態が裸ではないことに気がついた。スクアーロが着せてくれたのだろうかと瞳を彼に向けると、目の前の彼は顔を赤くして二度とあんなことは止めてくれと俯いている。何よ、いっつも見てるくせに!と恥ずかしさで声を荒げたら彼も同じように声を荒げて反撃してきた。いつもなら怖いけど、顔を赤くして叫ぶスクアーロなんてちっとも怖くないんだから!一通り言い合いを終えた後、スクアーロがなにやら土鍋を持ってきた。
「ジャッポーネではこうするんだろ?」
「…やっぱりスクアーロが優しいと気持ち悪いかも」
「んだとぉ゛?」
彼から受け取った土鍋の中にはほかほかのお粥が入っていて美味しそうだった。だけど私はそれを押し返し、あーと口を大きく開けた。せめてこういうことぐらいして欲しいよね。文句を言われると思ったが案外彼は嫌がらず、冷ましてからそれを私の口へと運ぶ。もぐもぐとする私に美味いか?と優しく聞いてくる彼に不意打ちで胸が跳ねた。ちくしょう、これ狙ってやってるのか。全部食べ終わって眠気が差したころ、スクアーロは氷枕を新しくして持ってきてくれた。朝、放置されてた分少しでも優しくされると心に染みてくる。ベッドに身体を預けようとしたら、いきなりスクアーロに抱きしめられた。一体何事だ、と思ったが額に当てられた彼の手によって理解できた。彼が言うことによるとまだ熱が残っているらしい。というか抱き締められてる所為で身体が熱くなっているというのも入っていると思うけれど。
「キス、していいか」
「うつるから駄目だって」
「ちっ」
「そのかわりさ、もっと抱き締めてよ」
ドキドキする。彼の抱き締める力が強くなってもっと増してくる。鼓動が早くなるのも、身体が熱くなるのも、熱の所為なんかじゃあない。
ああ、彼の優しさに溶けてしまいそうだ。
触れ合っていたいだけ