長かった闘いも、終わってみると案外短かったような気さえしてくるのだから不思議なものだ。隣に立つ金髪がさらりと揺れる。
クラウドがしみじみと言った。


「…長かったな」
「ああ」
「実際のところどれだけ時間が経っていたのかわからない。もしかするとほんのちょっとのことだったのかもしれない」


どうやら同じことを考えていたようだ。密度の濃い時間だったのだ、長く感じるのも無理はない。思い返してみればつねに必死で、無我夢中だったような気がする。そう言えば、クラウドは そうか?と眉を上げた。


「あんたはいつも冷静だった気がしたけどな」
「そう見えたのか…」
「だから俺達もここまで来れたんだ。あんただったから、ついて来れた」


感謝する、 クラウドも柔らかい表情をするのか 初めて知った。彼らのことを知るにはやはり短い時間だった。感謝する、その言葉がじんわりと身体に染み込む。


「いつかまた会えたら、そちらの世界の話を聞こう」
「興味ないね。……と言いたいところだが、会うこともあるかもしれないな」


まるでそういうことを知っているような口ぶりだ。私の視線を受け、クラウドがふっと目をそらした。どこか遠い、記憶の底を見ているような青い双眸と、ささやく声。


「そこでまた、会えると思うんだ」





小さな頃からずっと持っていたもの。来たるべきときが、その人が現れたなら、これを渡しなさい 母の声があざやかに蘇ってくるようでした。それほどまでに、クリスタルは輝いていたのです。透き通った希望の結晶、クリスタル。
わたしが差し出したそれを、勇者さんは眉をひそめ見下ろしました。


「…それが、クリスタルなのか」
「はい。祖父から母に、母からわたしに、大切に受け継がれてきたものです」
「………」
「世界はおそろしい闇に覆われようとしています。世界を救えるのは、あなたひとりなんです。どうか、」


どうか、ガーランド様を止めてください。言いかけて口をつぐみました。なんだか、とても自分勝手なことを言っているような気がして。いくらルカーンの孫の役目だといっても、勇者さんにとっては雲をつかむような話、それも命をかけなければならない理不尽な話なのですから。俯いたわたしを勇者さんはどんな目で見ているのでしょうか。幻滅、されたとしても仕方がない、たとえ、嫌われたとしても、


「私が、世界を救えるのか」
「…あなたにはその力があります」
「力…か。私にはあまり感じられないが……君が言うのなら、そうなのだろうな」


ついと顔を上げると、苦笑する勇者さんが目に写りました。穏やかな表情でした。ああ、このひとは。こんなことになっても、わたしのことを思いやってくれているのだ。わたしが寂しいのをわかっていて、計り知れない不安や動揺を押し隠してわらっているのだ。……しっかりしなければと、思いました。


「あなたには…勇者さんには、クリスタルにも負けない力があります。わたしを孤独から救ってくれた、あたたかな光の力が」
「光の、力…」
「それはきっと、どんな闇にも打ち勝つことができます。勇者さんならきっと。光はいつも、勇者さんと共に」


ゆっくりとクリスタルに向けて伸ばされた手が、わたしの身体を包み込みました。涙がこぼれます。どうしてわたしがルカーンの孫で、勇者さんが光の戦士だったのでしょう。けれどそうでなければわたしたちが出会うことすらなかったのです。哀しいほど、うつくしい皮肉。それでも、それでもわたしは、あなたのことを。

耳元で勇者さんの声が響きました。


「私にとっては、君が光だ。この光が共にあるというのなら、私はどんな困難にも打ち勝ってみせよう。君のいるこの世界を、守るために」



「そして、必ずここに還ってくると誓おう」



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