「とうとうクリスタルも全部集まったな!」
「…なんというか、すごいな」


スコールが息をついた。確かにこうして見ると達観である。一列に並べられたそれぞれのクリスタルは、褪せることなく個々の輝きを宿している。色も形も違うのは私たちと同じだ。よくここまで 込み上げる感情は、すべてが終わってから言葉にしようと決めている。


「それにしてもスコールのクリスタル、へんな形だなー」
「フン、悪かったな」
「べつに悪くないだろ?変わった形のがおもしろくていいよな!」


ため息をつくスコールとからからと笑うバッツのふたりは、まさに対照的な図だった。彼の底抜けに明るい笑顔は見ている者の心を軽くする。スコールの飽きれ顔も、ずいぶんと垢抜けたように思う。ひとりではなくなったのだ。…いや、我々は最初から一人ではなかった。もちろんこれからも、たとえ未だ見えぬ元の世界へ戻ったとしても、我々は決して一人ではない。

クリスタルは変わらずに輝いている。







買い物に行きましょう! わたしがバスケット片手に言うと、勇者さんは心なしか嬉しそうに口元を緩めたように見えました。


「私も行っていいのか?」
「もちろんです!今日は勇者さんの買い物がメインですから」
「私の…?」


そう。勇者さんのもともと着ていた服は無惨に引き裂かれてしまいましたから、今はうちのクローゼットの奥底に眠っていたものを着ているのです。擦り切れてはいないもののきれいとはいえないそれをいつまでも勇者さんに着せるのは心苦しいため、今日こそ新しい服を買いに行こうと思い立ったのでした。前から町に行きたがっていた勇者さんにもいい気分転換になるはず。
わたしはバスケットを抱えて、勇者さんは剣を腰に提げて家を出ました。




「…ずいぶんと顔が広いのだな」
「そうですか?」


それ と勇者さんが指さしたバスケットのなかには、町の人々からいただいた食べ物や花などが詰まっています。「しかも相当感謝されているようだ」勇者さんの言葉にわたしは苦笑するしかありません。


「実はわたし、この国の王女なんです」
「………本当か?」
「嘘です」


一軒のお店に入ると、カウンターのおじさんがわたしを見て顔をほころばせ、また勇者さんを見て首を傾げました。見慣れない顔を探るように見つめるおじさんの前に立ち、この間家のそばで倒れていたんです と説明します。勇者さんは物珍しげに店のなかを見渡していました。


「危ないやつじゃあないんだね?」
「大丈夫ですよ。とてもいい方です」
「スコアちゃんがそう言うなら、いい人なんだろうねえ。この人の服を買いに着たのかい?」
「はい。できるだけ立派なのを…」

「すまない。これは売り物だろうか」


わたしの言葉をさえぎった声に振り返ると、勇者さんが店の隅に置かれた甲冑を見ていました。わすれられたように置かれたそれは誇りを被っていましたが、かろうじて青い色をしているのがわかります。店のおじさんは首を振り、興味なさそうに甲冑を見やりました。


「昔、俺のおやじだかじいさんだかが使ってたもんだ。置き場がないからそこに置いてるだけさ」
「そうか…綺麗な色をしている」


欲しいんだったらやるよ、という言葉に、勇者さんの目が輝いた気がしました。他に何着か服を買い、店を出たとき勇者さんは重々しい鎧を胸に抱き、心なしか喜んでいるように見えました。




家に帰ってからていねいに磨けば、鎧はきれいな青を取り戻しました。着てみたそうな勇者さんから目をそらし、わたしは鎧を見つめます。きっとこの澄んだ青は勇者さんの髪に映え、うつくしいことでしょう。しかしわたしは着てほしくないような、ざわざわした思いが胸に渦巻くのです。わたしのそういった思いはたいていいつも当たる、それがどうしようもなく嫌なのです。


100926
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