剣を使う必要があるのかと聞けば、


「魔法だけだと足りないこともあるから」


と苦笑した。両手で握りしめた剣を振り下ろす。そんなでたらめな扱いでは、せいぜいイミテーションにしか通じないだろう。ティナの細い腕に剣は重い。それでも彼女が振るうと決めたのだから、教えを頼まれた私も全力で向き合うつもりだ。こうだ、と横で振ってみせれば、ティナは感心したように息を吐いた。


「音が違うのね。わたしの力じゃ難しそう」
「やれるところまでやればいい。ティナには魔法がある。私にはこれしかないからな」
「…はい」
「?なぜ笑う?」
「ごめんなさい、なんだか かっこいいなって思って」


ティナがもう一度剣を振った。さっきよりだいぶよくなっている。覚えるのが早い というか、思い出しているようだ。まるで遠い昔に剣を振るっていたかのような。かっこいいです! シュッと空を斬る。どこか懐かしい気持ちになるのは、なぜだろうか。







「かっこいいです!」
「…そう か?」


このくらいたいしたことではないだろう と首を傾げる勇者さんに、わたしはブンブンと首を振りました。勇者さんは不思議そうな顔で、しかしすぐに引き締めてまた剣を振り下ろします。シュッ 空を斬る音


「………」
「………」
「………」
「…そんなに見られると、やりづらいのだが」
「ああっそ、そうですよね!ごめんなさい!」


足元に置きっぱなしになっていたカゴを抱え上げ、わたしも自分の仕事に戻ります。ちらりと振り返ると、勇者さんはもう一度剣を振っていました。かっこいいなあ 思わず漏れるつぶやき。やっぱり勇者さんは勇者なのかもしれない、とばかなことを考えてしまいます。今は空を斬るだけでも、いつかあの剣でモンスターを倒す日も近いのかもしれません。わたしのそういった予感はたいていいつも当たるのです。きっとかっこいいのだろうな ふたたび止まった自分の足に気づいて苦笑します。

久しぶり もっともあの剣が自分のものなのかもわかりませんが 勇者さんが握ると錆び付いた剣が輝きだすようでした。まだ全快とは言い難い身体で剣を振るのはあまりいいことではありませんが、あの様子だと止めてもむだでしょう。そのうちほんとうに森のモンスターでも倒しに行きそうで心配です。


畑にカゴを降ろしたわたしの目に、太い木の枝がとまりました。パッと思いついて枝を拾い上げ、よけいな葉を取り除くと勇者さんのもとへ走ります。


「勇者さん!わたしに剣のあつかいを教えてください!」
「…は?」


勇者さんはパチパチ目をしばたかせました。わたしは持ってきた木の棒をみせます。われながらいい考えです。森に近いこの家は安全とはいえませんし、モンスターは倒せなくても畑を狙いにきた野犬くらいは追い払えるはず。剣を究めることは心も身体も究めることだとガーランド様もおっしゃっていました。護身用ですよ!と言いつのれば、勇者さんは考えるように目を伏せ、しぶしぶ頷きました。


「まずは構えからいくぞ」
「はい!」
「もっと腰を落とせ。視線は前だ」
「は、はい!」
「…そんなに力まなくてもいい。実戦でもないのだから」


いざとなったら私が戦うからな 驚いて顔を上げると、勇者さんはわたしの構えた木の棒の先をまっすぐ見据えています。いざとなったら その言葉を、わたしが危険な目にあったら、という意味で解釈するのは思い上がりでしょうか。わたしの視線に気づいた勇者さんが「こっちを見てどうする」といたって真面目な口調で言いました。


100926
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