我々には各々の宿敵がいた。記憶がないのに倒さねばならないと感じるというのはやはり、文字通りさだめられた敵だからなのだろう。


「大丈夫か?」


ああ、と立ち上がったフリオニールが言った。何だったんだあいつはとぼやいている。あいつとは、さきほどまでフリオニールと闘っていたセフィロスのことである。鋭い双眸が捉えているものを、クラウドなら知っているのだろうか。宿敵 さだめ 記憶の彼方の邂逅


「ふう…これからどうするんだ?」
「決着をつけにいく」
「あいつとか」
「ああ。輪廻を終わらせてみせる」


気をつけろよとフリオニールが言った。頷いて腰の剣に触れれば、脳裏に奴の顔が浮かんだ。倒さねばならない宿敵が 私にもある







今日は街の方へ出かけるので、留守番お願いしますね そう伝えると、彼が言いました。


「買い物か?」
「いえ…ちょっと用事があって。食べ物ももらってきますよ」


わたしの返事にすこし考えて、彼は「私もついていっていいだろうか」と聞きました。いつもの練習の拡大版で、街まで歩きたいと言うのです。わたしは眉をよせました。勇者さんの身体はどんどん回復していっているものの、さすがに柵もない街までの道を往復するのはきついのではないでしょうか。それに今日の用事はなにか大切なことのような、わたし自身が向き合わなければならないような、そんな気がして。そしてわたしのそういった不安は、たいていいつも当たるのです。


「勇者さん、最近ちょっと無理してます。今日くらいゆっくり休んでください」
「だが…」
「取り込んだ洗濯物、まだ畳んでないんです。あと今晩のおかずにじゃがいもを使いたいんですけど…」
「…わかった。皮を剥いておこう」


いつもきりりとしている眉を下げ、勇者さんは微笑みました。その笑顔は穏やかで優しげで思わずどきっとしてしまいます。普段表情の変わらない彼だからこそ、こういう何気ない変化がうつくしく見えるのでしょう。彼に見送られて、わたしは家を出ました。




王様のお城に来るのはもう何度目になるでしょう。幼いころから母に連れられ、母が亡き人となってからもわたしはここに度々通っていました。街の人々とすれ違うたびに挨拶をされ、時にはパンや干し肉をいただきながらお城を目指します。野菜なら家の畑でもとれますが、パンや魚、肉はそうもいきません。勇者さんに早く元気になってもらうためにも、遠慮はせずありがたくバスケットにおさめました。


「スコアさま、お待ちしておりました」
「王が待っておられます」


おおげさに頭を下げる兵士さんたちに挨拶し、お城のなかへ入ります。真っ赤なカーペットはわたしが歩いても跡ひとつつきません。街のような賑わいはなく、あくまでも厳粛な空気で満ちています。王様のお部屋まで向かう途中、「貴様、」とわたしの背に低い声がかかりました。振り向けば銀色の甲冑に身を包む、王様の騎士の姿。


「ガーランド様、お久しぶりです」
「誰かと思えばスコア、貴様であったか」


ガーランド様は王様の忠臣として、また強さにおいてもこの国一とされるお方です。子供のころからここに通っているわたしとは、昔からの知り合いでもありました。重々しい鎧につつまれながらも情があり、誇りを持つ彼をわたしはあのころから尊敬しています。


「久しぶりというほど時間を置いたわけでもないがな。先日来たばかりであろう。最近の王は度々お前を呼び出しているようだ」
「…仕方ありませんよ。こんなときですから。それより、今日はお城がずいぶん静かですね」
「兵士が出払っておるのだ。こんなときだからな」


どちらともなくため息をつき、わたしたちはそこで別れました。ガーランド様が歩くたびガシャガシャと音がします。その後ろ姿は相変わらずまっすぐで、わたしはなんとなく家にいる勇者さんの背中を思い出しました。


王様のお部屋へ入ると、どこか疲れた顔をした王様が玉座に座っておられました。わたしの姿をみてそのお顔がきりりと締まります。さすが一国の王。わたしは大きく頭を下げます。


「再び呼び出してすまない」
「いえ、そんなことは……」


…こんなときですから。わたしの言葉に頷いた王様が、重々しく口を開きました。母を亡くし幾度となくここを訪れても、この瞬間のわたしの心は鉛を入れたような沈んでゆくのです。





「そうそう、今日ガーランド様にお会いしたんですよ」
「ガーランド?」


夕食のドリアを口に運ぶ手を止めて勇者さんが聞き返しました。ドリアに入った不揃いのじゃがいもは、勇者さんが一日かけて剥いてくれたもの。どうやら料理をしない身の上だったのだなと、わたしはこっそり思いました。


「ガーランド様は王様に仕えていらっしゃる騎士なんです。わたしとはちょっとした知り合いなんですけど、すてきな方なんですよ」
「騎士…強いのか?」
「はい、もちろん!」


勇者さんはふと口元をゆるめ、それは一度会ってみたいものだな と言いました。勇者さんが強いのかはまだわかりませんが(きっと強いに違いありませんが)、ガーランド様が彼のことを知ったらやはり、同じことを言うのでしょう。


ガーランド様と勇者さん。ふたりはどこか似ている、そしてわたしのそういった考えは、たいていいつも当たるのです


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