学校から帰ってきたら玄関に立つ人影がひとつ増えていた。あいかわらず不機嫌そうなスクアーロと、天使のほほえみを浮かべたディーノくん。きんいろとぎんいろの髪に 性格まで正反対のふたりが並んで立っていると、まるでおとぎ話の王子さまみたい。あ だけど、スクアーロは王子さまよりお姫さまを守るナイトのほうがあってるかな。
わたしが大きく手を振ると、それに気づいたディーノくんがぶんぶんと手を振り返してくれた。隣のスクアーロが即座にどつく。おかしなふたりだ。


「おかえり、まひろちゃん!」
「ディーノくん、ただいま。スクアーロも」


家のカギをかばんから取り出しながら言えば、スクアーロはふいと顔をそらしてちいさく「…も かよ」とつぶやいた。ディーノくんがあわててその背中を叩く。


「もー、拗ねるなったら」
「だってスクアーロ、いつもおかえりって言わないでしょ」
「そうだよ、挨拶はちゃんとしないと!」
「うるせぇはねうま!」


ディーノくんを一発殴ってから、スクアーロはずんずん家のなかに入っていってしまった。なあんだ、せっかくスクアーロの おかえり が聞けるとおもったのに。赤みが注した右のほっぺたをさすりつつ、ディーノくんがため息をつく。


「あいかわらず乱暴だなぁ、あいつ」
「もとからあんなかんじなの?」
「まあな…まひろちゃんといるときは違うのか?」
「うーん。けっこうやさしいし、かわいいよ」


わたしの言葉を聞いたディーノくんはなぜか真っ青になって、「だれだそれ…」とつぶやいた。







「あ」
「ん?」
「ディーノくんのコップ、どうしよ」


昨日お母さんが買ってきたアップルティーを飲もうとしてふと気づいた。わたしとスクアーロはいつものマグカップだけど、ディーノくんのがない。何でもいいよ と言ってもらったので、めったに使わないお客さま用のティーカップを持ってきて並べると、それはそれでディーノくんにぴったりな気がした。とぽとぽと澄んだ色の紅茶を注いでいく。リビングにほのかなりんごの香りが広がった。


「ふたりのマグカップって、もしかしてお揃い?」


紅茶を一口飲んで、ディーノくんはわたしとスクアーロのマグカップを見比べる。


「うん。お揃いの買ったんだ」
「へぇー…」
「…てめぇ何笑ってんだぁ」
「いやあ、だって…なあ?うんうん」


ディーノくんはにやにやしている。どうしたんだろう。もしかしてディーノくんもお揃いのマグカップがよかったのかな。ティーカップが似合ってる気もするけど。
スクアーロの顔がまたまた不機嫌になってきたので、ディーノくんが蹴られる前にわたしは機転をきかせて話を変えることにした。


「そういえばね、さっきふたりが玄関に並んでたとき、王子さまみたいだなっておもったんだよ」
「王子?オレたちが?」
「うん。でもよく考えると、スクアーロって王子さまよりナイトってかんじだよね。お姫さまを守るナイト」
「ナイトかあ…確かにスクアーロは剣士だからそっちのがあってるかもな」
「……フン」


スクアーロはまんざらでもないのかすこしだけ口元をゆるめた。うまく話をそらせたみたい。ディーノくんの同意を得て、うれしくなったわたしはもう一度口を開いた。


「そしたらお姫さまはディーノくんだね!」
「ぶっ…」
「おまっ…!」


ふたりはおもいっきり紅茶を吹き出した。汚いなあ。そばに置いてあった台拭きでテーブルを拭くと、げほげほむせながらスクアーロが怒鳴った。


「なんで俺がこいつのナイトなんだぁ!」
「え?だってふたりとも仲良いし、ディーノくんお姫さまっぽいし」
「まひろちゃん…オレが男だってわかってるよな?」


ディーノくんに問い詰められて、わたしはこくこくと頷く。ふたりは困ったような 呆れたような顔で紅茶を飲んだ。え?なんかわたしおかしいこと言った…?マグカップを傾げるスクアーロをじいっと見つめると、顔をそむけて受け流された。なんなんだよう もう。


「あ゛ー…はねうま、てめぇいつまでここにいる気だぁ?」
「ああ、そのことなんだけど…」


ディーノくんはかわいらしい顔を悲しげに歪ませた。


「明日には帰らなきゃいけなくなっちゃったんだ」
「ええっ!?」


そんな!まだ日本に来たばかりなのに、もう帰る なんて。これからもっともっと仲よくなろうとおもってたのに…


「もう少しこっちにいられないの…?」
「オレもそうしたいんだけどさ、ロマーリオがどうしても急いで帰ってきてほしいらしんだ。明日の便に乗ってこいってリボーン…オレの家庭教師にもおどされたし…」


リボーン と名前を出して、ディーノくんは顔を青くした。それほどこわい家庭教師らしい。…そっか、ディーノくんにも勉強とかいろいろあるんだもんね。スクアーロの様子見が終わったんだから、ディーノくんだってじぶんの生活に戻らなきゃいけないのだ。


「なんか ごめんな。慌ただしくて」
「ううん。しょうがないよ。わたしはディーノくんとともだちになれてすごく嬉しかったもん」


さみしい気持ちを吹き飛ばすみたいにわらって言うと、ディーノくんがふるふる震え出した。がばっとわたしに抱き着く。


「ありがとなっ!オレもまひろちゃんと友達になれてよかった!」
「あはは、くすぐったいよディーノくん」
「…………………………」
「ちょっスクアーロ怖いその視線すごく怖い」


100522

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