イタリアってどんなとこ?ときいたらみじかい銀髪をくしゃくしゃとかいた。みだれた髪を直そうとしたらさりげなく避けられる。なぜかわからないけどスクアーロはわたしにさわられるのをいやがる。きらわれてるのかなあ、とこぼせばお母さんは 恥ずかしがってるだけよ と笑った。そうだといいんだけど。


「それで、イタリアってどんなとこ?」
「…ふつう」


ふつう ってなんだ、ふつうって。説明になってないよ。ぎゅ、と眉を寄せてみせればスクアーロも困ったように眉間にシワをつくった。


「…じゃあお前は、ジャッポーネはどんなところか聞かれたら、なんて言うんだぁ?」
「えっ」


逆に聞き返された。そんなこと考えたこともなかったから言葉に詰まってしまう。四季がある国 ってよく聞くフレーズが浮かんできたけど、そのくらい。忍者もサムライも昔のはなし。だいたいわたしはほかの国に行ったこともないし、比べる対象がない。


「行ってみたらわかるよって言うかな、わたしなら」
「なら俺もそう言う」


なんだか言いくるめられた気がするような…。スクアーロはきっぱりそう言うと、手元に目をもどした。スクアーロがさっきから真剣な顔で折りまげているのは、この前の折り紙だ。あれからスクアーロはひまがあると折り紙をするようになった。気にいったというよりは、意地なんだとおもう。うちの神棚にならぶぶきっちょなツルは、日を追うごとになかまをふやしてゆく。いつか千羽鶴がつくれるかもしれない。
ちなみにわたしは宿題のプリントと奮闘中。イタリア語だったらスクアーロに手伝ってもらえるのに。あいにく社会と理科は聞きようがない。


「…おなかすいたなあ……」


ぽつりとこぼすと向かい側のスクアーロが顔を上げた。とたんに ぐーきゅるる…とひびく音。リビングの静けさをやぶって吹き出したのはわたしのほうだった。


「スクアーロもおなかすいてるんだ」
「………うるせぇ!」
「ふふ、耳まっか」


「……」べちん。チョッブにそなえてあたまをガードしていたら、ひたいにおもいっきりデコピンされた。じんじんする。あまりの痛さに視界がぼやけて、そのままスクアーロを睨みつけると、さすがにわるいとおもったのか「わりぃ」と眉を下げた。スクアーロのこまった顔はかわいいとおもうわたしはけっこうエスなのかもしれない。


「お昼たべてないの?」


こくりと頷く。どうやら食材をきらしていたのにお昼になって気づいたらしい。いつも自炊していりことの方におどろいてしまう。わたしなんかおんなのこのくせしてまともに料理もできないのに。


「お前も食ってねぇのかぁ?」
「お昼休み、いそがしくて食べそこねちゃったから」


今日の昼休み、わたしは友だちの委員会のしごとを手伝うのでほとんどの時間をつぶされていた。いつもノートを貸してもらっているぶん、彼女にはあたまが上がらない。だからといってわたしの分のお弁当まで食べちゃうのはぜったいおかしいとおもうんだけど。


「どうしようか。夜までがまんはきついよね」
「なんかねぇのかあ?」


キッチンに入って冷蔵庫を開けてみる。「んー…ごはんになりそうなのはないかな…」


「これ、使える」


振りかえればスクアーロが棚を開けてあさっていた。…ひとのうちのキッチンなんだけどな……まあいっか、スクアーロだし。スクアーロが取りだしたのはパスタ2束。そういえば買いおきがのこってたっけ。「でも、麺しかないよ?」


わたしが指摘するとスクアーロはパスタをテーブルに置いて、今度は冷蔵庫をかってに開けた。…まあいっか、スクアーロだし…。スクアーロだったらお母さんだって文句は言わないだろう。テーブルを占拠していく食材たちとにらめっこしていたわたしに、スクアーロが振り向いて言った。


「お前はプリントやってろぉ」
「え?…いや、そういうわけにはいかないんじゃ」
「いいから」


でも、と抵抗してみたけど、わたしはあっさりキッチンからほうり出されてしまった。気が散る、なんて言われたらこっちだってうなづくしかない。せめて服をよごさないようにとわたしのエプロンを貸してあげた。青いシンプルなエプロン。仕方なしにあたまからそれをかぶったスクアーロの動きがふと止まった。


「どうしたの?」
「………。……ひもが」


結べない、らしい。けっして視線をあわせようとしないスクアーロがかわいくて思わずわらってしまう。背中にまわってはずかしそうに垂れ下がったひもを結んでいるあいだ、スクアーロの目はいそがしく泳ぎまくっていた。耳たぶがほんのりあかい。ほんとに恥ずかしがり屋さんだなあ…。


「はい、できました」
「おぉ…」
「料理、まかせるからね」
「おぉ」


ていうかこの状況、ふつう逆だよね。…まあいっか、スクアーロだし。







数10分後、わたしのお腹がぐうと鳴った。キッチンからただよってくるいいにおいに、はやくいっぱいにしろとせかしてるみたい。それにしても、さっきから本格的に料理してるみたいだけどだいじょうぶかな。プリントとようやくお別れできたところで、スクアーロがトレーにのせた料理をはこんできた。ベストタイミング。慣れた手つきで皿とフォークを並べる。いつものマグカップに牛乳を注いで、おそすぎるお昼ごはんのできあがり。


「…す、」
「?」
「すごい…!」


そうかぁ?なんて首をかしげるスクアーロ。わたしの目は手元のナポリタンにくぎづけだ。うちにソースなんてなかったんだから、これはスクアーロが一からつくったってことになる。パセリまでついて、お店ででてくる本格ナポリタンみたい。食べるのがおそれおおいとおもいつつ、がまんをしらないお腹の虫にせかされてわたしは両手をあわせた。


「い、いただきます!」


ちょうどいい固さの麺をフォークにからめて ぱくり。スクアーロはじっとわたしの反応を待っている。


「…おいしい…!」
「そうかぁ」
「おいしい!すっごくおいしいよスクアーロ!プロみたい!」


スクアーロは無愛想に、けれどほっとしたようにフォークをとった。なんだかんだでうれしそう。じぶんの料理をほめられるのはだれだってうれしいものだ。たべているわたしだってうれしくなる。


「イタリアの味がする!」
「…アホか」


やっぱりまんざらでもなさそうにスクアーロはほっぺたをゆるませた。イタリアに行かなくたってわかることもある。このナポリタンは、きっとイタリアのどこのレストランよりもおいしい。


100313
ナポリタンは日本料理だそうですね あほすぎる

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