信じられねぇ。
それがまず最初に思ったことだった。冷静に考えてみれば、あいつが生まれ育った町にあいつがいるのは至極当然のことで、こういう可能性もゼロではなかったはずだ。それでも信じられない気持ちだった。あれから10年くらいの月日が流れ、大人になった俺の前に現れたのは、



何年ぶりに会ったまひろはあいかわらずガキっぽい目をしていた。それを除けばまあ、あの頃より髪が伸びて、生意気に化粧なんかして、つまりは、その、き、きれ、…うるせぇ察しろぉ!!!

突然部屋に入ってきたまひろは包帯でろくに顔も見えない俺に他人行儀に挨拶すると、ディーノと再会の感動を噛み締めていた。キャッキャキャッキャと、あいつらは女子か。してやられたと睨みつけるもディーノの野郎は気づかないふり。おいお前肩震えてるぞ、明らかに笑ってんだろぉ!俺が怪我してなかったら3枚どころかすり身にしてやるところだ。まさかあのへなちょこディーノに嵌められる日が来るとは。しかしまあ、こいつもこいつで成長しているわけで。変なところで時の流れを実感してしまった。

まひろは自分が母校で教育実習中であること、英語の教師を目指していることを楽しげに語った。英語 あいつがあんなに苦手で嫌いだと嘆いていた英語。何がきっかけなのか知らねえ。ああ こいつも変わったのか。そう思ってみれば、目の前の女の姿がやけに大人びて見える。


そのうちまひろが持ってきた昔のアルバムを見ながらふたりは勝手に盛り上がりだした。お前らは何をしに来たんだ。同じ部屋で動けない俺は完全にアウェイ。くそ、はいずってでも出ていってやるか。


「あれ、あの写真ないのか?動物園で撮ったやつ」
「あー…あれはね、貼ってないの。ちゃんととってあるよ」
「オレも。懐かしいな、オレとまひろちゃんとスクアーロ、ザンザスもいたっけ」
「そうそう、スクアーロといえばね…」


そこで突然話を変えたまひろは、恐ろしいことに当時の俺の思い出話を語りはじめた。血流がよくなって包帯ごと赤くなるんじゃねぇかと心配になるくらい恥ずかしい記憶である。俺が折りヅルに苦戦していただとか料理が上手かっただとか不良に絡まれていたところをカッコよく助けただとか、まひろは子どものように目を輝かせながら喋っている。隣のディーノは既にこらえるのも忘れて腹を抱えて大爆笑だ。この野郎覚えてろ。命を助けられたとかこの際関係ねぇたたっ斬ってやる!

俺が風邪をひいた話が出たあたりでとうとう我慢の糸が切れた俺は全身重傷の身体で立ち上がり、「いい加減にしろまひろ!!!」と叫んだ。まひろがこっちを向く。大きな目がこぼれ落ちそうなほど丸く開かれた。

あ、やべぇ


「…………スクアー ロ?」


ようやく同室の包帯男の正体に気づいたまひろの目がさらにキラキラと輝き出す。ああ俺はその瞳が嫌いじゃなかっ「スクアーロ!」
まひろの細い身体が勢いよく飛びついてきた。ついでに悪ノリしたディーノまでもが抱き着いてきて、結果的に俺の入院期間が長引いたのは言うまでもない。


101018

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