「今日な、まひろちゃんに会ったよ」
ピクリ 微かだったけど、包帯に包まれた指が反応したのを見逃さなかった。覚えてるんだな、やっぱり。そりゃそうだよな、忘れるわけないもんな、他でもないお前が。
久しぶりに会ったあの子は当たり前だけど大人の女性に成長していて、けれど目はあの頃のままだった。キラキラしてて、鏡みたいに澄んでいるそこに映ったオレの姿もずいぶん変わっていた。車椅子のこいつなんかもっとそうだ。包帯ぐるぐる巻きで見る影もない。
「気になるか?」
「…そんな奴知らねえ」
またまた。目が泳いでるくせに。その姿に昔の面影が重なった気がして少し嬉しかった。包帯ぐるぐる巻きだけど。病室にはオレとこいつだけ。なんだかんだいって共有している記憶は多いと思う。こんな状況でも軽い口がきけるのは、お互いの記憶を彼女が繋いでいたからだ。懐かしいあの日 少年だったあの頃。
「まだここに住んでるんだってさ。家まで送ってきたんだけど、あの頃のまんまだったぜ」
「知らねえ」
「頑固だなぁ」
会いたくねえの?と聞けば返事はなし。きっと苦虫を噛み潰したような顔してるんだろう。押しが強くてどんどん先に進もうとするくせに、振り返るのはヘタクソなままだ。
「まあお前の意見は聞いてないんだけどな」
「あ゛ぁ゛!?」
凄んだって怖くないぜ。相手は包帯ぐるぐる巻きだし、オレだってもうガキじゃない。小さく笑ったとき、部屋のドアが開いた。ガチャリ
「あ、ごめん。ノック忘れてたね」
パタン。再び閉じたドアを軽く叩く音。どうぞと返事をしながら、背中に痛いほど突き刺さる視線には気づかないふり。入ってきたまひろちゃんの目がまっすぐオレの背後に注がれる。
「お邪魔しちゃった?」
「いや、気にしなくていいぜ。オレの知り合いなんだ」
「そう?…こんにちは」
ぺこりとお辞儀。オレは気まずさを通り越して大爆笑を必死にこらえていた。唖然としたスクアーロの顔が目に浮かぶ。
言っとくけど脅されたって怖くないからな、どうせ包帯ぐるぐる巻きだし。
101018